現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(5)
バイアス(偏見)にとらわれず「お施主さんの幸せ=営業の幸せ」の法則を作る

現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(5) バイアス(偏見)にとらわれず「お施主さんの幸せ=営業の幸せ」の法則を作る

住宅業界の営業マンの中には、「数字やノルマに追われて、お客さんのための提案ができない」という罪悪感を持っている方が多くいます。会社としての利益を確保するため、営業に毎月ノルマを定めている会社がほとんどだと思いますが、それは会社にとっての本当の意味で“利益”になっているのか、疑問が残ります。

ノルマがあれば、もちろん営業マンはそのノルマのために動きます。すると契約を取るためにその場しのぎのセールスをしてしまうので将来を見すえた提案ができなくなり、お施主様も、住んでみてから「この部分が失敗だったな」などと気づくことになるでしょう。

家はお施主様にとって一生付き合っていくものです。小さな後悔一つでも、最終的にはそれを建てた工務店の評判を下げてしまうことにつながりかねません。「気持ちよく家を売れる営業マンを育てるために」という記事にも書きましたが、「正直」な営業が、社員とお施主様のどちらも「幸せ」にするということを忘れないでほしいと思います。

では、そんな後悔が起こらないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。
その答えは簡単です。営業から「ノルマ」をなくせばいいのです。多くの会社はノルマをなくすことなどとんでもないと思うかもしれませんが、実はノルマをなくすほど営業がやる気を持っていきいきと仕事ができ、お施主様のためを想った提案ができるので、結果的に会社の評判も上がるはずです。

今回は、行動経済学の中の「バイアス」と呼ばれる偏見の種類を理解し、ノルマ主義からの脱却が会社に与える影響を紹介していきたいと思います。
行動経済学は消費者心理を利用し、セールスのために使うというイメージがありますが、実は、偏見を廃して良いものを売るための手段にもなり得ます。

バイアスは意識しなければ取り除くことができないものです。コンサルとして営業が持ちやすいバイアスの種類を理解し、営業もお施主様も満足度の高い経営を目指して下さい。

冒頭で説明をした通り、行動経済学における「バイアス」とは、偏見や先入観のことを指します。では、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。これが分からなければ偏見を取り除くことができませんね。
まずは主なバイアスの種類を説明していきたいと思います。

見て見ぬふりをする「不作為バイアス」

「不作為バイアス」とは、人は失敗する恐れがあるなら何も行動を起こさない傾向が強いというバイアスです。
要するに、小さな問題点を非難されることを恐れ、見て見ぬ振りをしやすくなると言うことですね。家づくりでは細かな問題要素は多々出てきます。しかしそれを無意識のうちに見ないようにしていませんか? 常に「見て見ぬ振りをする可能性が高い」ということを念頭に置く必要がありそうです。

反対意見に耳を傾けない「認証バイアス」

不作為バイアスと似ているものに、「認証バイアス」というものがあります。
これは、人は自分の考えを肯定したいがために、自分と反対の意見を聞かなかったり収集する努力をしないようにする、というようなことです。ものごとを決定する時は自分の考えも必要ですが、反対意見も同時に集めることが大切です。
たとえば、間取りなどは、ある程度多くの人が心地よく感じる決まりきった形がありますが、それありきで考えていないかをコンサルとしてケアすることが重要です。

多数意見に流れる「同調バイアス」

「同調バイアス」は多くの人が経験済だと思いますが、多数派の意見に対して、違う意見が言いにくくなることです。
これは社内において間違いなくマイナスの要素になり得ます。先述したように、ものごとの決定には多方面の意見が必要です。お客さんに対する対応や経営の方針などをめぐって社内で会議を開く機会も多いかと思いますが、そんな時こそ同調バイアスに囚われやすくなるので意識しましょう。

ちなみに、そのような場面では「ブレーンストーミング」という、“否定禁止”の方法が役に立ちます。否定をされないと自由に発言がしやすく、多角的な考え方が生み出されるので、よりよい結論を導きやすくなります。

責任のがれをする「自己奉仕バイアス」

最後に「自己奉仕バイアス」について説明します。
自己奉仕バイアスとは、成功は自分に受け入れやすいけれど、失敗の責任はとらないように働く傾向のことです。
真剣に向き合っているつもりでも、無意識のうちに、人は責任逃れをしている可能性もあるということです。なかなか気がつきにくいバイアスではありますが、常に自問自答を繰り返して防ぐように心掛けましょう。

「バイアス」から逃れるためには

このように、バイアスは視野を狭くし間違った選択をしてしまいがちです。
住宅業界ともなると、偏見による少しの判断ミスがのちのちお施主様からの信頼を失ったり、大きな失敗となって現れたりすることもあるので、注意が必要です。

では、会社を運営する側として、バイアスを取り除くためにはどのようなことをすればいいのでしょうか。
一番簡単な方法はノルマをなくすことです。バイアスはお客さんの満足度を上げるために取り除く偏見です。しかしそれがいつまでもノルマに縛られてばかりいると、余裕がなくなり、非合理的な選択をしやすくなってしまいます。

気になることがあっても数字のために見て見ぬふりをしてしまう「不作為バイアス」や、ただでさえ人は反対の意見を受け入れにくい「認証バイアス」という傾向があるのに、さらにノルマに縛られていては、それらを意識する余裕がなかなかもちにくいものです。

“ノルマ”がない方が、営業のモチベーションも上がる

ノルマ主義から脱却し、バイアスにも目を向けられるようになれば、コンサルとして営業一人ひとりに合った指示ができるようにもなるでしょう。

ノルマで縛ることは簡単ですが、ノルマは営業が持っている不満や不安を隠すので、教育を怠るということも意味します。ノルマではなく仕事の中身に注目をすることで、細かなアドバイスもでき営業のモチベーションも上がっていきます。

ノルマで縛らない、サティスホームの新しい営業の仕方

ノルマで縛らない経営が本当に成功するのか、信用できないという人もいるかもしれません。
私たちサティスホームは、営業をノルマで縛らないことでお施主様の満足度を上げ、何十年たっても「頼んでよかった」と言われる家づくりを目指しています。

ノルマで縛らないことが会社にとって不安ではないかと聞かれることもあります。この答えは、間違いなく「NO」です。
私たちの哲学の中には、「商品とは消費者が自由に選択するものである」という信念があります。本来、本当に安くていいものは売りこまなくても自然とお客さんが選択してくれます。巧みな言葉ではなく、商品の良さで勝負をしています。
逆に言うと、会社自体が営業だけに頼ることもないので、社内には「いいものを作ろう」という一体感が生まれ、仕事のモチベーションも高くなるのです。

ノルマで縛ることがないと、営業マン自身にも心の余裕が出てきます。すると、お施主様の目線に立った考えができるようになり、将来の住み心地も含めて、本当にそのお施主様のための提案であるのか、真剣に一軒一軒の住宅と向き合うことができるようになり、明らかに質の高い家づくりを実現することができるようになります。

きれいごとのように聞こえてしまうかもしれませんが、これは実際は大変なことです。
ノルマだけで縛るなら、その場限りの営業で乗りきることもできるかもしれませんが、お施主様の一生を想像して責任を持つことの重大さは、とてもひとことでは言い表せられないほどです。小さなこともきちんと解決しながら家づくりを進めなければなりませんから、営業マンたちは時として壁にぶつかることもあるでしょう。ただ、その疲労感はとても爽快で、自分自身も成長させてくれるはずです。

ノルマに縛られている職場では、同僚や上司に相談がしにくい環境ができあがってしまいますが、お施主様の満足度に重点を置いている職場では、みんなで気軽に意見を出し合い、問題を良い方向で解決していけます。

このような方法をとれば、自然とお客さんからの評判も上がり、無駄な押し売り営業に労力をかけずにいい家づくりができるサイクルが生まれるのです。

まとめ

ノルマ主義から脱却することはとても勇気がいることだと思います。しかし、それもまた、自分では気がつきにくいバイアスのひとつかもしれません。
お客さんの満足度は、ノルマの数字とは決して比例しません。営業マンの満足度がお施主様の満足度になる、ということを理解して、笑顔であふれる家づくりを目指しましょう。