住宅コンサルは、話し合いの場を有意義にするファシリテーター

コンサルは、話し合いの場を有意義にするファシリテーター

多くのお施主さんにとって、家づくりは初めての経験になると思います。右も左も分からず、担当者にアドバイスを求めながら、探り探り進める方も多いでしょう。もちろん、その過程では、家族間で意見が割れることも多々あると思います。

そんなとき、住宅のコンサルタントは、お施主さんのためにどのような立場に立つべきでしょうか。こういった場面でよくありがちなのは、“お施主さんの前に立って、リーダーシップを発揮する”という考えです。しかしこれは少し違います。確かに、お施主さんの考えをまとめることは大切ですが、決してお施主さんを引っ張っていくのではなく、お施主さんがじっくりと考えることができる状況を作りあげ、バックアップすることこそが“良いコンサル”です。

このように、コンサルが意見を押しつけるのではなく、黒子のように支えて多くの人の意見を引き出し、より良い結論を導き出すことを「ファシリテーション」と言います。今回は住宅のコンサルが「ファシリテーション」を身につけることで得られる効果を紹介していきます。

「ファシリテーション」とは?

会議など、何人かで集まって意見を言い合う場面では、いつも同じ人ばかりが発言をし、その他の人はなんとなくそれに同調していくという場面をよく見かけませんか? せっかく意見を出し合う場であるのに、一言も発しない人がいることも珍しくはないと思います。

それでは新しいアイデアは生まれず、会議を重ねれば重ねるほど、いつも発言している人の発言力が高まってしまうばかりですね。これではただ無駄に時間が過ぎているだけです。

そんな非効率なことをやめて、会議を有意義にするために役立つのが「ファシリテーション」です。ファシリテーションを遂行する役割の人のことを「ファシリテーター」と呼びますが、コンサルがファシリテーターとして会議を進める役割を担うことで、多くの人の意見を導き、無駄な時間をカットすることができます。

ファシリテーターの具体的な役割は、発言しやすい場を設けることで、質の高い意見をメンバーに導き出させることです。ですが、その前にまず、ファシリテーターの役割として挙げられることは、多くの人が集まる場を作ることです。みんなが集まりやすい時間や場所を選定するところからファシリテーターの仕事は始まります。

そして意見を言い合う場が整ったら、全員が意見を言えるような環境を作ります。こちらから、普段発言しない人を名指しして、意見を聞くこともいいですし、そもそも、誰もが意見を言いやすい論点や切り口を、前もって用意しておくことも大切です。とにかく“発言しやすい”雰囲気作りに徹してください。そのときは、質よりも、多くの意見を出すことが重要なので、誰かの意見に対して否定的な意見を言わないよう、メンバーに徹底しておきましょう。

意見が揃ったら、ファシリテーターがそれらの意見を整理します。ここでは意見をまとめながらも、その情報をメンバーにきちんとシェアすることが大切です。分かりくい意見は、情報を視覚化するなどして、全員が理解できるように伝えてください。きちんと道筋を立ててロジカルに説明するスキルも必要ですね。

意見がまとまったら、最終的な判断を促すようにもっていってください。ただし、ここで注意すべき点は、ファシリテーターが意見を“まとめない”ということです。
判断はあくまでもメンバーに任せ、メンバーが納得して結論を受け入れることが大切です。会議の場では、誰か一人が決定的な発言をしなければ、なかなか意見がまとまらないと思ってしまいがちですが、きちんとファシリテーションを行い、意見を出し合っていれば、すでにメンバーのおおよその心は決まっています。あとは、その詳細をメンバーで詰めていくことでよって、質の高い結論が生まれますよ。チームの結束力も一段と高まっていくでしょう。

ファシリテーションを行う上で気をつけたい点は、ファシリテーターが常に中立な立場でいることです。メンバーの意見を導き出すためにも、決して先入観は持たないでください。そしてもちろん、ファシリテーター自身もポジティブな言動が求められます。これらを心得ることでチームがより成長し、いい考えが生まれますね。

住宅のコンサルが「ファシリテーター」となることで得られる利益

個人やチームの可能性を最大限に発揮できる手法として、今では多くのコンサルタントがファシリテーションを意識しています。ファシリテーションは住宅のコンサルにも有益です。

一般的なコンサルがファシリテーションを取り入れる会議の場を、住宅のコンサルティングに置き換えてみると、家づくりの計画段階での“家族会議の場”が、当てはまりますね。意見がなかなかまとまらないことが多い家づくりの家族会議ですが、ここで上手にファシリテーションを取り入れることで、家族の意見が気持ちよくまとまりますよ。

例えば家族で「どんな家にしようか」と話し合いを開始したとき、家長一人の意見が反映されることがどうしても多くなってしまいます。そういった場合、どちらかが我慢をすることで無理やりまとまることもありますが、これから一生住んでいく家に、ちょっとした不満を残すことはいいことではありません。他愛もないケンカの際に、「あの時だって……」と余計な要素を与えてしまうこともあるでしょう。

しかし、コンサルがファシリテーターとなり、家族全員の意見を引き出して、最終的には家族全員で結論を出すことができれば、家族の後悔や不満を防ぐことができます。そればかりか、家族の結束力も高まり、より幸せな家庭を築くことができるのではないでしょうか。家づくりでは家族が衝突しがちですが、むしろそれにより絆が深めることができるのです。

企業内の会議では、少しだけ目をつぶったり、後で挽回が効いたりすることもあるかもしれませんが、家づくりは一生にかかわることです。「あの時ああしておけば」や「あの時言っておけば」という後悔は、えてしてずっと引きずることになってしまいます。家族全員が気持ちよく意見ができる場を作るサポートをしてあげてくださいね。

「ファシリテーション」を住宅の現場で活かしてみる

それでは、住宅の現場では、どのようにしてファシリテーションが活かされるのでしょうか。具体例を挙げてみたいと思います。

家族会議の中でも、最も意見がまとまらないのが「二世帯住宅を建てる場合」です。両親と子どもという家族構成でも、それぞれの意見がまとまらず、家族が衝突してしまうこともありますが、ましてや、そこにおじいちゃん、おばあちゃんの生活についても考えなければならないとなると、もはや全員の意見を活かすことは困難だと半ば諦めてしまうような人もいるかもしれません。

しかし、そんな時こそ、住宅コンサルタントの出番です。
まずはファシリテーションを活かして、多くの意見を聞くために、家族が集まる場を設けましょう。家族会議は家族に任せてしまい、コンサルは後でその結果を聞くことが多いかもしれませんが、その家族会議の場に最初から入って、サポートすることが大切です。手間がかかるように思うかもしれませんが、ここできちんと家族の意見が一致されることで、後で計画の変更や家づくりに向けた雰囲気が悪くなることも防げます。

おじいちゃんやおばあちゃんは「みんなに任せるよ」と言うかもしれませんが、ちゃんと会議に全員参加してもらうようにしてください。例え意見がなくても、その結論が導き出された過程と空気感を知ることは大切です。それに、参加をすれば自然と意見は出てくるものです。

ここまで来たら、家族全員に意見を聞いてまとめるという作業になりますが、「ウッドデッキを付けたい」「邪魔だから要らない」というように、正反対の意見が出される可能性もあります。そんなときは、みんなが結論を導きやすいように、それぞれのメリットとデメリットをコンサルが例示してあげてください。家族がより深く考えるための平等な材料を用意することも、コンサルの重要な役割です。言葉では難しいような場合は写真や図を見せるなど、分かりやすさに配慮することも必要です。納得度が増し、家族がより良い形で結論を導くことができます。

ちなみにこのファシリテーションは、家を建てる前の段階、すなわち営業段階でも有効です。営業は特に「売る」ことが大切なので、メリットをアピールしながらお客さんを購入という結論に引っ張りますが、その購入を決心する前に、お客さんがどう思っているのか、本当に必要なものは何なのかを導き、整理するようにしてください。

そうすることで、お客さんは自分の気持ちや自分が必要としているものを自覚でき、納得して購入段階に進めます。住宅は購入してからが本番です。このように購入を決める時からファシリテーターとなることで、信頼度が増し、これからもいい関係でいられることができます。

まとめ

コンサルの仕事は全員を引っ張ることに責任を感じがちですが、仕事の大部分は、影から最大限のサポートをすることです。住宅のコンサルがまとめなければならないお客さんは、もちろんそれぞれ性格も違うのですから、苦労をする場面もあるかもしれませんね。

ですが、そんなときこそ妥協せず、あなたがファシリテーターとなって全員が納得できる、気持ちの良い結論を導き出してください。ファシリテーションは、一度コツを身につければ次からは自分のものにしていけます。ぜひ、実践に取り入れてみてくださいね。