お施主様の課題をMECEで解決しよう

お施主様の課題をMECEで解決しよう

住宅業界のコンサルタントとして、このサイトではロジカルシンキング(論理的思考)を学ぶことをお勧めしていますが、ロジカルシンキングでよく出てくるキーワードのひとつに「MECE」というフレームワークがあります(「ミーシー」「ミッシー」と読みます)。
これは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字をとったもので、Mutually Exclusiveは「互いに重複がなく」という意味で、Collecticely Exhaustiveは「全体にモレがない」という意味なので、あわせて「モレなくダブりなく」ということになります。難しくいうと、「相互に排他的な項目」による「完全な全体集合」ということです。
「MECE」はビジネスパーソンとしては基礎知識とも言えますが、MECEを活用することによって、正しく全体像を捉えることができる、大変奥が深いものです。

なぜ、「モレなく、ダブりなく」が必要なのか

ロジカルシンキングの教科書などを読むと、「MECEを徹底せよ」ということが書かれていると思います。それはなぜでしょうか。

なんらかの課題を解決しようとする際、そこには様々な要素が複雑に絡み合っており、そのままでは取り扱うことが難しいものです。そこで、よりシンプルな形にものごとを整理し、シンプルで小さな要素ごとに細分化していきます。それによって、一つ一つの要素に思考を集中し、解決策を検討したり、実行したりすることが可能になるわけです。

ますが、そのとき、要素が重複していたり、抜けてしまったりすることが往々にして起こります。モレがあると、目指すべきゴールを定義できなかったり、重要な要素を検討しないことになりますし、ダブリがあれば、何度も同じことを検討することになるため、効率も悪く、思考を集中させにくくなってしまいます。

たとえば、ある商品の販売強化を課題とし、ターゲットごとに効果的な販促方法を決めることがゴールだったとします。
MECEを認識せずにターゲットを議論すると、「ファミリー市場」「20代社会人」「シニア市場」などと思いつくままになり、まとまらなくなってしまいます。
MECEを理解していないと、自分たちの議論にモレやダブリがあることに気づかない、つまり全体像をつかめていないことに気づけないのです。

ある事柄を全体集合と考え、トップダウンの視点から漏れもダブリもない部分集合に分けることがMECEです。
MECEは、このヌケモレをできる限りおさえるための「構造化」の基本の考え方です。
主張と根拠をピラミッドのようにロジックで積み重ねていくロジカルシンキングにおいて、結論を導くためには、結論を支える部分がMECEである必要があります。
モレとダブリがないようにする理由は、

  • 網羅できる
  • 見落としを排除できる
  • 混乱がなくなる
  • コミュニケーションがとれる

というものがあります。
何かを考えたり説明しようとするとき、MECEになっていれば、全体がわかりやすく詳細化されていてモレもダブリもなく、理解しやすい。だから考えやすく、話しやすく、聞きやすく、つまりコミュニケーションがスムーズになるのです。

どのように分解すればMECEになるのか

MECEは一種のはめこみパズルのようなものです。全体を考え、それを隙間なく埋めるパズルのピースに分解していけば必ずMECEになります。
例えば、人間の生物学的な性別は「男性」「女性」です。
ある集団の年齢構成は「10歳未満」「20代」「30代」「40代」「50歳以上」です。
同じように、月を「1月」「2月」「3月」に分解したり、都道府県を48に分解したりと、全体をみながら、どのような分類になるかを整理すれば、MECEとなるのです。

MECEに考えるコツ

MECEの本質は、「全体を捉えた上で、いくつかの分類に正しく分けること」です。
つまり、その分け方が「どういう視点に立っているか」「どういう切り口なのか」ということが鍵になります。
製品のターゲットなどでは、20代・30代・シニア…といった分け方は「年齢」という切り口です。製品によっては、個人・法人という切り口もあるでしょう。そのほかにも製品のタイプで分けたり、その製品の使われ方などによって分ける方法もあるでしょう。
全体を分類するには、いろいろな切り口があります。目的に沿って、どの切り口を使って分けるかが大切になります。このとき注意すべきなのは、複数の切り口を混在させてしまわないことです。切り口が混在してしまうと、モレやダブリが生じてしまうのです。

MECEな要素に分解するときの手順には2つのアプローチがあります。

トップダウンでアプローチする

「全体集合」がわかるときは、その全体からトップダウンで考えていきます。
まず全体集合を確認し、課題等から、目的となるMECEな切り口を決定していきます。フレームワークなどがあればそれを活用するといいでしょう。
MECEになる切り口ですべての情報をあげ、まとめていくことになります。

ボトムアップでアプローチする

「全体集合」がどういったものかわからないこともあります。そのときはボトムアップで考えていきます。
役立ちそうな情報を列挙し、それをグループ化することで、全体集合が次第に明らかになっていきます。
ある程度見えてきたら、グループ化した内容がMECEになっているかを、逆にトップダウンで検証していくのです。

また、次のような点には注意が必要です。

レベルに気をつける

たとえば、「男性」「女性」と分けることは同じレベルの分類ですが、「男性」「主婦」というふうに分けてしまうと、レベルが異なることになります。異なるレベルを並べて論じてしまうと、モレやダブリが発生してしまうことになります。

違う切り口を混在させない

たとえば、業種や業界がまるで異なるような企業を並べてしまうと、いくら「企業」というレベルが同じでも、切り口が異なることになります。そのためやはり正しく分析したり意思決定することができなくなります。

MECEになるフレームワークを探す

対称概念でフレームワークを考える

効果か効率か: 目的がどれだけ達成されたかを表す度合いとして「効果」を、目的の達成するのにかかった費用・時間・手間の度合いとして「効率」を考えます。もちろん、「効果」がなければ「効率」が高くても意味はありません。

定性か定量か: 個人の意見や感想などの数字にできない「定性データ」と、統計データなどの数量化が可能な「定量データ」に分けて考えます。

事実か判断か: 何が事実で何が判断かということをMECEに分けて考えるものです。「事実」とは誰が見ても同じように認識できる事柄であり、その事実をどのように考えるかという意見が「判断」になります。

マーケティングの既存フレームワークを使う

おすすめは、思いつきではなく、世の中に流通している フレームワークを使うことです。
次のような既存のフレームワークで練習しながら、日常生活でMECEを意識してみましょう。これらのフレームワークはMECEであることが実証されテイル者ですから、正しく使えば、枠に当てはめていくだけでMECEを実現できます。

3C分析: フィリップ・コトラーが提唱したフレームワークです。企業活動を3つのC(顧客分析(Customer)、競合分析(Competitor)、自社分析(Company))から分析することで、漏れもダブリもなく正しく市場を分析できます。

4P: ジェローム・マッカーシーが提唱したフレームワークです。製品開発から販売 プロモーションまでの マーケティング戦略を表しており、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、 プロモーション(Promotion)という4つのPからなっています。

SWOT分析: アルバート・ハンフリーによるビジネスチャンスを見いだすための自社状況の分析方法です。強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つの頭文字からSWOTと呼ばれます。

AIDMA: サミュエル・ローランド・ホールが発表した フレームワークで、ユーザーが商品を購買するプロセスを表します。具体的には、製品を認知して(Attention)、興味を持ち(Interest)、欲しいと感じて(Desire)、記憶して(Memory)、最終的に購買行動にいたる(Action)、というふうに分けられます。

製品ライフ サイクル: 製品が市場に登場してから退場するまでの間を、売上高(および利益)と時間の関係から導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つの段階に分けて考えるものです。各段階ごとに異なるマーケティングが適切になります。

バリューチェーン: マイケル・E・ポーターが『競争優位の戦略』という著書で提唱した、価値連鎖の フレームワークです。事業プロセスを主活動と支援活動に分けて、どの工程でどういったバリュー(付加価値)を出しているかをモレ・ダブリなく分析できます。マーケットの変化やユーザーの ニーズといった外的要因を踏まえて、競合の打ち手を予測し、自社の強みを整理整頓して、精度の高い事業戦略を行っていく手がかりになります。

こうしたフレームワークは、本などで読んでもなかなか実感することは難しいものです。慣れないうちは、実際にヌケモレがないかどうかはなかなか見きわめられないかもしれません。ぜひ積極的に使って、分析を体験しなければ、使いこなせるようにはなりません。何度も練習することで、自分のものにすることができるでしょう。

お施主様の課題をMECEで解決しよう まとめ

ビジネスでは、まず全体を俯瞰しようとする思考が重視されます。これは住宅業界のコンサルタントでも同じですね。お施主様が幸せになれる家を建てるという目標全体を考えると、課題の解決法は様々な面から考えられるということです。
ロジカルシンキングの基本中の基本であるMECEは、全体集合がどのような部分集合で成り立っているかをチェックするための技術であると言えます。
目の前にある「木」を1本1本数えるところから始めるのではなく、それをまずは「森」として全体を俯瞰する必要があるのです。
全体を理解していれば、モレやダブリなく、数えるべき木はどれか、そしてそれが何本あるのかとトップダウンに考えるくせをつけるようにしましょう。