Win-Winの交渉を目指すために「BATNA」「ZOPA」を勉強しよう

Win-Winの交渉を目指すために「BATNA」「ZOPA」のことを勉強しよう

たとえば、あなたが要らなくなったブランド品を買取店で処分することにしたとしましょう。そこで、あなたはお店と担当者と、持ち込んだ商品の買取価格を交渉することになります。
せっかくのブランド品を少しでも高く買い取ってもらうためには、この交渉の戦略をきっちり立てる必要があります。
戦略というと大げさなようですが、このように人と交渉することということは、政治での外交でも、仕事でも、そしてブランド品の買取でも、基本的には同じなのです。
交渉は、ビジネスのあらゆる場面で必要になる、きわめて日常的なことです。もちろん、住宅業界のコンサルタントも交渉とは無縁ではありません。
今回は、交渉というものの構造を紹介し、自分の思った結果を導くためにはどうすればいいかということを紹介しましょう。

交渉を学問する

じつは、交渉については「交渉学(Negotiation Theory)」というものがあります。
交渉学というのは、世の中のあらゆる交渉について研究する学問です。もともとは、経済学、心理学、政治学、法学、ビジネススクール、都市計画学などの学際的な協働に始まったものですが、次第に体系化されつつあります。

交渉学においては、相手が自分よりも重要視するものと、自分が相手よりも重要視するものを交換することが交渉であるとされています。
さっそく難しい言い方になってしまいましたが、こちらも先方もどうでもいいと思っていることについて取り決めをすることは、交渉ではありませんよね。
こちらか相手のどちらか、もしくは両方が重要だと思っていることについて、いろいろな条件を出して交換することが交渉なのです。
そして、交渉は、両者にとって、利益を生む結果にならなければなりません。
一方だけが良い結果を享受できるような話し合いは、交渉とは言えないのです。
それは理想論ではないのかと思われるかもしれません。
その通りにいけば、どんな交渉も双方がニコニコして終わり、決裂するようなことは起こらないことになりますが、誰でも知っているとおり、実際の交渉はそんな簡単にはいきません。ストライキや離婚裁判など、いろいろな場面で、合理的に交渉することが難しくなるような「行き詰まり」に陥ってしまうことがあるからです。
交渉が成立すれば、どちらも得をするとわかっていても、なお、交渉が行き詰まってしまうのはなぜでしょうか。

交渉や説得がうまい人は、交渉学にもとづいた「交渉の構造」をしっかりと捉えています。交渉の構造を理解していれば、その落としどころを的確に見きわめることができるようになるのです。

交渉において、何を目指すべきか

交渉には、代表的な5つのオプション、つまり「落としどころ」があります。

  • コラボレーション(Win-Win):相手との関係を良好に保ち、交渉の成果も最大になります。
  • 打ち負かし(Win-Lose):相手との関係は悪化しますが、交渉の成果は大きいオプションです。
  • 完全譲歩(lose-Win):相手との関係を良好に保てますが、交渉の成果は小さいオプションです。
  • 結論先延ばし(Lose-Lose):相手との関係も悪化させ、交渉の成果も最も小さくなります。
  • 妥協(Lose-Lose):相手との関係、交渉の成果ともに中間のオプションです。

このうち、最も望ましいのは、Win-WInのシチュエーションです。
逆に、結論を先延ばしにしたり、お互いが妥協せざるを得ないLose-Loseは、最も避けたいシチュエーションといえるでしょう。妥協は、「引き分け」というよりは、Win-Winを逃してしまっている残念な状況だからです。
相手を完全に打ち負かしてしまうWin-Loseは、一時的にはプラスになりますが、相手との長期的な関係を考えると避けたい結果です。逆のパターンであるlose-Winも、望ましいものではありません。

BATNAとZOPAを理解してWin-WInの交渉を目指そう

上記のような「落としどころ」を理解した上で、BATNAとZOPAという基本概念について紹介します。
交渉の前にこの二つを押さえておくことで、交渉の際のライン決めを明確になります。

BATNA:もし交渉が決裂したらどうするか

BATNA(Best Altenative To a Negotiated Agreementの略)というのは、「交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」という意味です。
こちらの言い分が通るとは限らないのが交渉です。相手にまったく受け入れてもらえなかった場合、どうするかということを決めておかないと、言い分を主張することはできないでしょう。

例えば、冒頭に書いたブランド品買取の店での交渉を考えてみましょう。
もしあなたが持ち込んだブランド品が、別な店では1万円で買ってくれるという情報をもっていたとしたら、どうでしょうか。
あなたはそれを担保にして、その店で買い取り価格1万円以上から交渉を始めることができます。
その店で交渉が決裂したとしても、もう一つの店に行って1万円で売るという代替案があなたの中にあることになるからです。
このように、交渉が決裂した場合にどうするかという対処策の中で、最も良いと思われる代替案が、BATNAなのです。

交渉学では、交渉を始める前にBATNAを見つけることが重要とされています。
ただし、上の例でもわかるように、正しいBATNAをもつためには、情報の収集が不可欠です。「別な店で1万円で買ってくれる」という情報がなければ、BATNAを見つけることはできないのです。

実際の交渉においては、まずは思いつく範囲で暫定的なBATNAを見つけておいて、よりよい条件のBATNAを次第に見つけていくのが一般的な戦略であるとされています。

BATNAとは、交渉力そのものです。
あなたにBATNAがあれば、交渉に強い気持ちで臨めることになります。
たとえこの交渉が決裂しても、あなたにはすでにBATNAがあり、それを実行すればいいわけですから、目の前にいる相手に対して、臆さずに強気に交渉することができます。
相手との今後の付き合いを考えると交渉が決裂するようなことはできない、という場合もあるかもしれませんね。
相手との関係を大事にすることを選ぶか、望ましい交渉結果を得ることを選ぶかというのは、交渉とはまた別の問題になります。
単に気が弱くて相手に強く出られないだけではありませんか?
将来、BATNAを実行しておけばよかったと後悔することはありませんか?
自分の気持ちをもう一度確認してみましょう。

留保価値を決めておく

留保価値というのは、自分の中で決めておく最低ラインのことです。もしBATNAを持っていれば、通常はそれが留保価値になります。

自分のBATNAは、相手には知られてはいけません。
同じブランド品買い取りの場合を例にすると、「じつは別な店で1万円で買ってくれるところがあるから、最低それ以上の値段をつけてくれなきゃ」などと、うっかり言ってしまったとします。
それに対して、お店側が「じゃあ、うちでは1万2千円出しましょう」などと言ってくるかもしれません。
BATNAより良い条件だ、とそれに飛びつく前に、もう一度考えてください。あなたのBATNAを知らなければ、そのお店ではその品を2万円で引き取ってくれたかもしれません。
あとでそれに気がついて、「2万円で買ってくれないかな?」と交渉しても、きっと難しい展開になるでしょう。
逆に、その買い取り品が2万5千円という店頭価格をつけていることから相手のBATNAを推測して、「1万8千円で売りましょう」と、自分のBATNAよりも有利な条件で交渉を始めることもできます。
このように、実際には、複数の情報を集めることによって、留保価値を決めることもあります。
もしかしたら、あなたはそのお店に買い取ってもらったお金で、そこで買いたい品があるのかもしれません。その価格をからめて交渉したいのであれば、留保価値は変化していくことになります。

ZOPA:交渉が成立する範囲

ZOPA(Zone Of Possible Agreement の頭文字)は、「合意可能領域」という意味の概念です。

交渉においては、あなたも相手も留保価値を決めていることになります。
その留保価値の範囲が重なっていれば、それは「交渉が妥結する可能性がある範囲」ということになります。

もう一度、ブランド品の買い取り店での交渉を例にしてみましょう。
あなたは、他の店で1万円で買ってくれるというBATNAをもっており、それを留保価値としています。
このとき、お店の側のBATNAが1万2千円で、それを留保価値としていたとします。
あなたは1万円以下でその品を売るつもりがなく、相手は1万2千円以上出すつもりはない、という状況ですね。
この場合であれば、その交渉は、おそらく1万円から1万2千円の間でまとまることになるでしょう。かりに1万1千円で妥結したら、その交渉は双方にとってBATNAよりもいい結果になったことになり、Win-Win(コラボレーション)であったということになります。
このような、こちらの留保価値と相手の留保価値の差をZOPAと言います。

同じ例でも、あなたのBATNAが1万円、お店のBATNAが8千円であれば、8千円から1万円という範囲がZOPAになり、どちらかが妥協しなければなりません。
この場合、妥協したほうが「損をする」ことになりますので、交渉としてはWin-LoseかLose-Winの結果になることになります。
ZOPAが広ければ広いほど、交渉は成立しやすくなり、狭ければ狭いほど、決裂してしまう可能性が高いということになります。

ただし、上記のように、相手の留保価値を知ることは、普通はできません。
交渉しながら、相手の留保価値を予測し、ZOPAを想定することになります。
「こちらは1万円以下では売りたくない。このお店では1万2千円ぐらいがBATNAなんじゃないかな。じゃあ、まず1万2千円と言ってみよう」
という具合です。
想定したZOPAの範囲の中で、相手の限界値近くから交渉を始め、自分の利益の最大化を目指すわけです。
したがって、相手の限界値をいかに正確に予測できるかということが交渉を有利に進める鍵になるわけです。

交渉のスタートではBATNAやZOPAは見えていない

BATNAとZOPAを中心に、交渉の構造を簡単に紹介しましたが、実際の交渉では、相手の出方を見なければそれを把握することができませんので、もっと複雑な過程を踏むことになります。

たとえば、世間相場や常識、前例などといったものがありますので、いくら自分のBATNAを明らかにしていなくても、交渉はそれを前提としたところからスタートすることになります。それを無視するような始まり方をする場合は、相手には交渉を成立させる意思がないのかもしれません。
そのようなラインを「参照値」といいますが、実際には相場や常識は曖昧な場合も多いと思います。

そして、この参照値を参考にしながら、それぞれのBATNAに基づいて交渉が始まりますが、自分のBATNAを知られないように、最初の言い値は、譲歩することになるかもしれないライン、つまりBATNAプラスアルファになるでしょう。
ブランド品買い取りの例でいえば、「最低1万円」という留保価値は、最後にとっておいて、まずは「2万円でどう?」と交渉を始めるということです。
これはお店の側でも同じです。
このように、「明らかに高い価格」「明らかに低い価格」と双方が意識する交渉の過程をアンカリングといい、そこで表明されているラインをアンカーと呼びます。

このように、参照値を参考にアンカリングを重ねながら、相手の留保価値を推測し、ZOPAを仮定して、自分のBATNAを下回ることがないように交渉を進めるのが、理想的な交渉と言えるでしょう。

Win-Winの交渉を目指すために「BATNA」「ZOPA」のことを勉強しよう まとめ

交渉が進むにつれてアンカーは刻々と変化していきますが、交渉で明らかになった情報などによって、BATNAやZOPAなども変わっていきます。有利な交渉結果を得るためには、つねに状況を客観的な目で観察し、柔軟に変更をしていく必要があります。
交渉次第によっては、スタート時点ではZOPAが存在しないような交渉であっても、双方の努力によってZOPAが創出され、Win-Winの交渉結果を獲得できることがあります。

最初に述べたように、交渉というものは、すべてのビジネスパーソンにとって無縁ではない行為です。ぜひ、本記事の内容を参考に、素養を高めていってください。