見落としがちな「仮定」の落とし穴を疑う「PAC思考」を身につけよう

見落としがちな「仮定」の落とし穴を疑う「PAC思考」を身につけよう

PAC思考とは、クリティカルシンキングを養う手法のひとつで、物事を論理的に考える手順です。
当サイトでは、これまでロジカルシンキングについて多くのことを説明してきました。クリティカルシンキングは、ロジカルシンキングに客観性を加えるものです。
今回は、クリティカルシンキングで用いられる思考の中でもとくに重要なPAC思考についてご紹介します。

クリティカルシンキングとは?

クリティカルシンキングとは、問題を適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法です。
ある情報をロジカルシンキングで分析するときには、情報から1つ1つの要素を考え、複雑になっているものの因果関係を明らかにしていき、結論に辿り着きます。
クリティカルシンキングでは、さらにその結論に対して、「本当にそうなのか?」という問いを投げかけるのです。
疑いをもつことは、あら探しや、単なる否定とは異なります。
「問題を定義し、感情的にならず客観的、論理的、批判的に分析し、本質に近づける」のがクリティカルシンキングです。思考過程を改善するためのつねに情報を求めることで、より複雑で高次元の判断や分析、思考を可能にするのです。
クリティカルシンキングは、情報を1度客観的に疑うことでロジカルシンキングを補い、思考過程に間違いがないかを確認する効果があります。
ロジカルシンキングも出発点が違っていれば論理が全て崩壊していまいます。クリティカルシンキングによる客観的な視点を加え、出発点を疑うことで、正しい方向へ導くことができます。
「こういう前提があるからこういう結果になる」という因果関係をメインに考えるロジカルシンキングは、頭の中を整理したり、第三者に説明する際に便利なものですが、クリティカルシンキングを加えることで、より効率的・効果的な結果を生むことができます。
ロジカルシンキングとクリティカルシンキングを組み合わせることによって、より質の高い解決策を導くことができるでしょう。

クリティカルシンキングを行う習慣ができていると、情報が氾濫している中で、自分なりに正しく分析することができるようになります。意見を聞いているときや、情報収集しているときに役立つわけです。
クリティカルシンキングは、あらゆるものごとに絶えず疑問をもち、思考を巡らせることです。最も頭が良くなる思考法とも言われています。
そんなクリティカルシンキングでよく用いられるフレームワークには、ヒストグラム、BATNAとZOPA、プロコン、フィットギャップ分析、ジレンマ、PAC思考、オッカムの剃刀、認知バイアスといったものがあります。
(このうち、認知バイアスについては、「現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(5)バイアス(偏見)にとらわれず「お施主さんの幸せ=営業の幸せ」の法則を作るという記事で、BATNAとZOPAについては、「Win-Winの交渉を目指すために「BATNA」と「ZOPA」を勉強しよう」で、オッカムの剃刀については、「複雑化した問題をシンプルに捉え直すための「オッカムの剃刀」」という記事で紹介しています)
問題の解決に取り組む際に、先入観(物事を希望や憶測で事実や判断を誤ってしまう認知バイアスと、自分に都合の良い情報だけ集めて先入観を正しいものとする確証バイアス)に囚われていないかをチェックするということです。
上記のフレームワークの中でも、PAC思考は非常によく使われるクリティカルシンキングのフレームワークです。

PAC思考とは?

前回、「仕事のスピードと質を大幅に上げる「仮説思考」はコンサルタントの基本」という記事で、仮説思考について説明しました。
仮説思考とは、何らの行動を起こすときに、もっている情報や知識に基づいて仮説を立てるという思考法です。解決策をすぐ思い浮かべるために役に立つ思考法で、少ない情報で正解を導くことができるようになるので、仕事が早いコンサルタントになるためには必須のものだということを説明しました。
PAC思考は、この「仮説」を検証するときに使うものです。

仮説をを取り巻く状況を見ていくときには、論理的な正しさを検証する必要があります。
事実と結論を結びつけている仮定が正しいかどうかということは、仮説思考のキモになる部分ですよね。仮定が間違っていたら、元にしているのが正しい事実であったとしても、導き出される結論がまったく違ったものになってしまうからです。
(「仮定」と「仮説」を間違えそうになりますので、注意してください。PAC思考で用いるのが仮定で、PAC思考を用いた結果検証されるのが仮説です)

PAC思考では、仮定をサポートしている事実、仮定に反する事実などを見つけて、仮定を検証したり反証したりします。その結果、問題を解決するための仮説の正しさを検証し、間違っていたら修正していくわけです。
まず、PACというのは、Premise(前提・事実)、Assumption(仮定)、Conclusion(結論)の頭文字です。
PAC思考では、仮説をこの3つの要素に分けて分析します。
PAC思考では、この結論(C)が妥当であることを証明します。証明できなければ、その仮説に信憑性はないということになり、別の仮説を立てるあるということになります。

例えば、

「この商品は昨年100個売れた。まだまだ需要があるから、今年も同じだけ売れるだろう」

この仮説を分解してみましょう。

この商品は昨年100個売れた  → 前提・事実(P)
まだまだ需要がある     → 仮定(A)
今年も同じだけ売れる    → 結論(C)

PAC思考では、上記の仮定(A)に注目し、こんな疑問を投げかけます。
「『まだまだ需要はある』というのは本当か?」
「他社が類似商品を発売することはないか?」
これによって仮定(A)がほころびたら、結論(C)はくつがえってしまうということがおわかりいただけたと思います。
さらに、場合によっては、前提・事実(P)も疑う必要があります。
意外と、誇張されて伝わっていたり、誤った情報を前提・事実(P)にしていることが多いからです。とくにインターネットで入手できる情報には、そのような曖昧な情報があふれかえっています。
たとえば「海外のセレブに大人気」「今、若者の間でブームになっている」といったよく目にするフレーズは、本当に事実だと言えるでしょうか?それを前提・事実(P)にしてしまうと、信憑性のない結論(C)が導き出されてしまうことになります。

このように、PAC思考によって、価値判断が正しいかどうか、うっかり思いついた仮説にとらわれてしまって、バイアスによって間違った因果関係を信じてしまっていないかといったことを検証していきます。

たとえば、人がなんらかの価値を判断するときには、自分の中に基準をもっています。
1500円のランチを高いと判断する人の中には、「ランチメニューの適正な価格は1000円以内」などといった基準があるわけです。言うまでもなく、人によっては「500円以内」「2000円以内」など基準はまちまちですので、その価値判断の基準(レファレンスポイントと言います)が客観的に正しいかということを考えなくてはなりません。
これが価値判断の正しさということです。

また、仮定(A)が誤ったものであっても、それを信じてしまうと、前提・事実(P)がその仮定(A)を確認する方向で解釈されてしまうことがあります。
これは人の評価などにおいて起こりがちです。ある人を好意的に評価すると、その人に関する情報をすべて良い評価に結びつけてしまうことがあるわけです。これは、確認バイアスの問題です。

前提・事実(P)にしばられて誤った仮定(A)を立ててしまうこともあります。定価10万円とされる商品が3万円に値引きされているのを見て、「安い!」と判断してしまうようなことです。
これはアンカリング効果といって、セールスでよく使われる錯覚をもとにしています。

このように、PAC思考では、前提・事実(P)や仮定(A)を疑うことで、導き出されている結論(C)が妥当なものかということを判断していきます。

間違った因果関係の見つけ方

因果関係がないのに因果関係があると思い込んでしまったり、その逆に、因果関係があるのに因果関係が無いと思い込んでしまったりすることはよくあります。
これにより、前提・事実(P)に対して誤った仮定(A)を立ててしまうのです。誤った仮定(A)は、それ自体がバイアスとなりますから、悪循環となり、その結果ロジカルシンキングができなくなってしまいます。

因果関係は、複数のものごとを同時に認識すると誤ってしまいがちです。同時に認識したことが多いほど、因果関係があるという思い込みが発生してしまうのです。
本当に因果関係があるか、あるとすればどんな因果関係かという意識をもってください。とくに、いくつものものごとを同時に認識した場合は、より緻密に因果関係を把握するようにしましょう。
また、その時点では認識できないようなものが関係しているような場合には、因果関係があることを見落としがちになります。
たとえば、五感で認識できないような原因は見落としてしまうことがよくあります。また、過去の現象というようなものも見落としがちです。
これは、人間には「見えるものや、よく知っていることから考える」傾向があるからです。

見落としがちな「仮定」の落とし穴を疑う「PAC思考」を身につけよう まとめ

前提・事実(P)・仮定(A)・結論(C)という3つの要素に分解して考えると、仮定(A)こそが、前提・事実(P)と結論(C)を結びつけるロジカルシンキングのキモであることがよくわかると思います。
仮定(A)が変われば、同じ前提・事実(P)から正反対の・結論(C)仮定を導き出すこともできるのですから。
PAC思考を強く意識すれば、コンサルタントとしての問題分析力は必ず向上します。
また、PAC思考の原則は、前提・事実(P)は文字通り前提として、仮定(A)を検証しますが、上でも述べた通り、前提・事実(P)も疑ってかかる必要があります。
変化の激しい現代においては、過去の想定が前例として通用せず、仮定(A)が成り立たないようなケースも大いにあり得るのです。
限られた経験で感覚的に捉えられた前提・事実(P)になっていないか、現在の状況でも成り立っている前提・事実(P)なのか、という視点は忘れないでください。