住宅コンサルタントに必須の能力「伝える力」を鍛えよう

コンサルタントに必須の能力「伝える力」を鍛えよう

家は決して安い買い物ではありませんですから、建ててから、「あそこをこうしとけばよかった」「この部分が想像と違った」というギャップをお施主様が感じることのないようにしたいものですね。

そんなギャップが生まれないようにするためには、一体どうすればいいのでしょうか。
そのためには、計画段階できちんと相手に分かりやすく説明をすることです。
住宅コンサルタントにとって重要な仕事は、住宅の知識やアイデアを持つこと以上に、お客さんとのコミュニケーションを取り信頼関係を築くことです。あなただけが理解しているのではなく、その情報を共有しているかどうかが大切なのです。

そういった能力をどのようにして培っていけばいいのか、意外と知らない人は多いかもしれません。
今回は、そんな「伝える力」を鍛えるための具体的な考え方を紹介していきます。

実は伝わってなかった? 伝えることの重要性

住宅コンサルタントは、日ごろ多くの人と話し合いを重ねながら、ものごとの結論を出していると思いますが、実は、人の脳みそというものは、言われたことの1/4程度しか理解することができないのだそうです。もし伝え方が下手くそだったりすると、伝わる内容の量はさらに減って、コミュニケーション不足のまま計画が進んでいくことになってしまいますね。

伝える力、いわゆるコミュニケーション能力をアップさせるためには、お施主さんとより近い関係になることが重要です。それは雑談をしてプライベートなことを話すだけでは根本的には解決しません。もちろんそういったことも大切ではありますが、今回はそれをより具体的な方法で紐解いていきたいと思います。

「ピラミッド原則」で相手の頭に入りやすい説明を

まず、「伝える力を鍛える方法」として大変使い勝手が良い「ピラミッド原則」という考え方を紹介しましょう。
ピラミッド原則とは、言いたいことを細かく整理して相手に分かりやすく伝える方法です。多くのコンサルタントが意識しているもので、訓練によって誰でも使いこなすことができますよ。

まず、一番キーになるポイントは「結論から話す」ことです。これを「メインメッセージ」と呼びますが、話を始める際に、まずは一言でメインメッセージを伝えてください。そしてその後に、その結論に対するメリットや理由(ラインメッセージ)を話し、さらにその次に、「なぜならば……」と詳細を話します(サポートメッセージ)。こうすることで、言いたいことが整理され、相手が理解しやすくなるわけです。

この際に注意したいのは、あいまいな表現を避けることです。
「かもしれない」や「たぶん」「適切」といった表現は、気づかぬうちに使ってしまいがちなものですが、こういった言葉が入るだけで、相手に不信感を与えかねません。話の主旨に注目してもらいたいなら、こうした言葉は排除するように心がけてください。

また、結論の部分は、一言でまとめるようにしてください。一番伝えなければならない部分が2つ以上の文章で構成されていては、重要ポイントとして絞られたことになりません。「~と」と言った接続詞で文章を繋げることも、あまり好ましくありません。

「ピラミッド原則」を使ってお施主さんに説明をしてみる

ピラミッド原則は、お施主様に何かを説明するときにも大変役に立ちます。
例えば、家ができてから一番後悔する人が多いポイントは、キッチン周りの間取りですが、その場面でも、ピラミッド原則を使って説明ができます。

実際にお施主さんとのやりとりを見ていきましょう。

キッチンは毎日使うものなので、計画段階で、使い始めたときをできるだけ想像して、特にお施主様とコンサルタントの意識を共有させたい部分です。しかし、お施主様にとっては夢のマイホームですから、使い勝手ということよりも、見た目や性能ばかりに囚われてしまうことが多いと思います。

キッチン周りにすでに収納がたくさんあるにも関わらず、さらにパントリーを作りたいと希望するお施主様がいたとします。そして、あなたは、パントリーを作ると生活導線が妨げられてしまうから必要ないという結論を出したとします。
そんな時は、先ほど紹介したように、頭の中で、結論(メインメッセージ)→そのメリットや理由(ラインメッセージ)→詳細(サポートメッセージ)を整理して、相手に伝えてみてください。

すると、このような言い方になるはずです。

「パントリーは要りません。(メインメッセージ)
 ↓
 なぜなら、既にたくさんの収納があるからです。(ラインメッセージ)
 ↓
 これ以上収納が増えても、パントリーは使わずムダになり、むしろ生活導線が機能しない可能性があります。パントリーがなければその分間取りも広くとれるので、リビングや洗濯スペースにゆとりがでてきますよ。(サポートメッセージ)

このとき、より具体性を持たせるのであれば、サポートメッセージを添えるときに、「パントリーがある場合とない場合の比較間取り」や、「他の人の体験談」があれば、さらにいいでしょう。
そして、もしお施主さん側に疑問点が少しでもあるのなら、後に残さず必ずその場で聞くようにしてください。

「ラポールの構築」を使ってなんでも言いやすい環境を作る

次に紹介したいのは「ラポールの構築」です。
ラポールの構築とは、理論というよりは、相手に信頼してもらうための心理学的な手法です。本などでもよく紹介されていますが、ここではそんなラポールの構築を整理し、住宅のコンサルタントとして使いやすいようにアレンジしてみたいと思います。

そもそもラポールとは、フランス語で「橋を架ける」という意味です。
自分と相手の心に“橋”を架け、親密な信頼関係を築くということですね。
ラポールの構築の中でも、特によく知られているのが「ミラーリング」や「ペーシング」というものです。
これらはミラー(鏡)のように相手のしぐさを真似たり、話し方を真似たりして相手に心を開いてもらうことを言います。これは、相手にリズムを合わせることによって相手をリラックスさせ、言いたいことを引き出すことが目的です。「真似をする」というよりも「相手の空気に合わせる」という方が適切かもしれませんね。
住宅業界はお施主様と一生付き合っていく関係を作らなければならなりません。そのためには、相手が語りやすい雰囲気を作り、お施主様の本心を知ることが大切です。
ミラーリングやペーシングを意識すれば、自分だけが話しすぎたりすることなく、相手のことを聞く「間」を作ることができるでしょう。

ある程度、コミュニケーションのベースができたら、相手をリードする「リーディング」を使えばさらに良い結果が生まれるでしょう。
リーディングとは、その名の通り相手をリードすることですが、こちらの思い通りに進めるということではなく、相手にこちらの想いや考えを聞いてもらい、相手がベストな方向に進むように手助けをするための手法です。

リーティングの具体的な使用方法は、肯定的な言葉を選んで、相手の意思を尊重しながら会話を進めるということです。
相手の主張に対して、「それは違う」とすぐ反対するのではなく、いったんそれを受け入れ、一緒になって考えていく姿勢を見せていきます。

「ラポールの構築」によって生まれる信頼関係

ラポール(親密な信頼関係)が構築されると、お施主様は意見を言いやすくなります。それにより、家を建てた後に後悔するようなことが少なくなり、結果的にお施主様の満足度アップにつながります。
お施主様は、家づくりの工程を100パーセント理解しているわけではありません。
今の段階で言ってくれればまだ間に合うようなことを、現場の人たちに申し訳ないと遠慮して伝えられずにいたために、あとで後悔するようなことがあるかもしれません。

例えば、建設途中に「間取りを変更したい」という申し出がお施主様から出てきたら、まずは可能、不可能に関わらず、その申し出をいったん受け入れ、聞く姿勢を見せましょう(リーディング)
そして、相手がその理由などを話し出したら、「そうですね」とポジティブな言葉でそれを受け止め、その空気に合わせながら、本心を語りやすい“間”を作ってみてください(ペーシング)
その中で、もし間取りを変更することによる費用や納期などのマイナス面を、ピラミッド原則を使って説明し、一緒にその問題を解決する姿勢をとってください。

ラポールが構築されると、お互いの警戒心が解け、肩の力が抜けます。そのような空気ができていれば、それぞれを尊重しながら本音で話し合うことができるでしょう。
お施主様にとって、遠慮することなく質問をしやすい環境ができ、また住宅コンサルタントにとっても、一方的な提案にならないので、非常にバランスのとれた関係で家づくりを進められることでしょう。
ラポールについては、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてくださいね → お施主様とのコミュニケーションの架け橋「ラポール」を形成する方法

まとめ

住宅コンサルタントは、知識や経験以上に伝える力が必要です。大切なことは、お施主様にひとつひとつきちんと理解してもらって、大切な家づくりを進めることです。きちんと伝えることは、お施主様のためを想うことでもあるのです。

誤解を生まないためにも、コミュニケーションの基盤をしっかりと作り、互いに言いたいことを言えるような関係性を、主導しながらつくりあげていきましょう。