お施主様とのコミュニケーションの架け橋「ラポール」を形成する方法

お施主様とのコミュニケーションの架け橋「ラポール」を形成する方法

住宅業界のコンサルタントとして、お施主様のご家族に幸せな家づくりを行ってもらうには、前提条件として、そこに質の良いコミュニケーションがなくてはなりません。
このコミュニケーションの鍵となるのが、「ラポール形成」です。ラポール形成ができていなければ、コンサルタントの提案がどんなに役に立つようなことであっても、お施主様はあなたの話を聞いてくれないでしょう。
これはビジネス一般、そして人生においても同じです。
どんなにあなたが仕事ができて、魅力的な人であっても、ラポールを形成することができなければ、上司に認められることもなければ、異性の恋愛対象に入ることもないのです。
ラポール形成ができると、初対面から始まる人間関係でも、相手の安心感や信頼感を得ることができ、円滑にコミュニケーションを進められるようになります。
今回は、この「ラポール形成」についてご紹介していきますね。
感覚的には多くの人が経験していることですが、意識して使いこなせている人は少ないのではないでしょうか。

ラポールとはなにか

ラポールという言葉は「架け橋」(「意思の疎通性」といった意味)を意味するフランス語です。
ラポール形成は、今やビジネスや政治、教育などの幅広い世界で常識になりつつありますが、もともとカウンセリングやセラピーといった心理療法における、カウンセラーとクライアント(相談者)との絶対的な信頼関係から生まれたものです。

悩みを人に話すことには誰しも抵抗があります。しかし、それを言えないままでいれば、悲しみや苦しみを抱え続けなければなりませんし、誰にも苦しさをわかってもらえないという孤独に陥ることになります。また、そうした方は、えてして自己表現が苦手で、自分はこうしたい、こう思う、これは止めて欲しいといった思いを我慢してしまう傾向があります。
こんなクライアントに対して、カウンセラーは、「あなたであればこそ話せる」という深い信頼関係を結ぶことによってカウンセリングをしていきます。ラポールが形成されていれば、クライアントは言いにくいこと、抑え込んでいた思いも吐き出せるようになります。
つまり、元の言葉の意味の通り、ラポールは相手との「架け橋」なのです。

カウンセラーは悩みを話してくれたクライアントに対して、情報を提供したり、行動の目標を与えたりといった提案やアドバイスをします。しかし、どんなに適切なアドバイスであっても、信頼関係ができていなければクライアントは受け入れてくれません。自分自身の状況や気持ちをしっかりとわかってくれている人からのアドバイスであれば、クライアントも納得感を持ってそれを実行できるようになるのです。

心理療法の世界を離れて、住宅業界のコンサルタントとしてのお施主様との関係、そしてセールスや交渉、プレゼンといったビジネス一般の世界、さらには家庭や教育の現場に置き換えてみましょう。
安心感、好感、そして信頼性を相手との間に築き、コミュニケーションの目的をなしとげることが、ラポールの形成なのです。

ラポールを築くための基本姿勢

ラポールは、人とコミュニケーションを行う際の土台として、理解度や納得度に大きく影響を与えます。
誰かに対して何かを伝えたいというときには、何を伝えるかということと同じくらい、ラポールが築けているかということが大切になります。
たとえ内容が正論だとしても、ラポールが築けていなければ「屁理屈」「押しつけ」などと受け取られてしまうかもしれません。逆にいえば、多少の誤りがあっても、ラポールが築けていれば、「この人の真意はこういうことを言っている」と好意的に解釈してもらえることさえあります。

たとえば現場の職人が、お施主様の要望に対して「今さら変更なんて絶対できないよ!」という不平をぶつけてきたとしましょう。

  あなた 「そうだよね、絶対できないよねー。」

これは、「同意」してしまう悪い例です。

  あなた 「いや、そんなことないよ、○○すれば、できるでしょう!」

これは一見正しそうに見えますが、アドバイスになっている、あまり良くない例です。

  あなた 「そうか、職人さんとしては、『今さら変更なんて絶対にできないよ』って思っているんだね…。」

これが、相手の言うことを受け止めている例です。

この例を念頭に置きながら、ラポールを形成するための基本姿勢について説明していきましょう。

相手に思いやりを持つこと

真のラポールは、「相手を意のままに動かそう」という立場では築くことができません。
ラポールを築く時に大切なのが、共感的理解という概念です。
相手の立場で考えを理解し、相手が想い描く風景を一緒に見て、相手が聞いている音を一緒に聞き、相手の感じていることを一緒に感じる。そうした共感的理解が、ラポールを形成するために重要なのです。
そのようにして相手の現実に入ることで、心理的なつながりが強くなります。
相手の痛みも、自分の痛みとして感じることができる思いやりを持つことで、ラポールが形成されるのです。

相手の言うことを傾聴すること

相手との間に信頼関係を築きたいという誠実な気持ちを、具体的な行動で示すのが、「傾聴」です。これは、聞きたいことを聞くのではなく、相手が言いたいことを聴いていくという姿勢のことです。
人には、その人としての経験によって形成されている世界観というものがあります。相手の世界を尊重し、共感し、大切な人だと思って接して聴くのが傾聴です。

相手に合わせること

人は自分と似たものに出会うと、無意識のうちに安心し、好感をもちます。
初対面の人でも、同じ出身地の人だとわかると安心感や好感を覚えることがありますよね。共通の知人がいたり、卒業した学校が同じだったりすると、距離感がぐっと縮まります。似た境遇や環境、趣味や好きなスポーツが似ていると、それだけで安心感、好感、親和性が高まります。共通点がレアなものだったりすると、ラポールはさらに強まります。

動物の世界では、似たもの同士が群れを作っています。これは防衛本能と言われるものが私たちの中にあるからです。自分と似ている、類似性があるものに出会うと、防衛本能のスイッチが解除され、近づきやすくなります。
ラポールを形成する上では、この類似性の法則も念頭に置いておきましょう。類似性、つまり、言語、非言語を問わず、相手に合わせていくこと(ペーシング)が重要になります。

卓越したセラピストやカウンセラー、セールスや交渉といったコミュニケーションの達人と呼ばれる人は、このペーシングの能力に長けています。
相手に合わせることは、自分のやり方や考え方を曲げたり、我慢することではありません。相手を尊重し、よりよい解決策や目的に向かってリードしていくためにペーシングがあるのです。

ラポールを形成する4つのテクニック

テクニック1 動作や姿勢、表情を真似する「ミラーリング」

ミラーリングとは、相手の動作や姿勢、表情などのボディランゲージを相手に合わせていくことです。
例えば、お酒の席で、なんとなく同じタイミングで「ジョッキを口に運んでしまう」という体験はありませんか。
脚を組んで椅子に座っている相手の前では、なんとなく脚を組んでしまったり、相手が腕組みをすると、同じようにしてしまったり。
これは、相手と同調したいというあなたの気持ちが自然にミラーリングという行動に表れているのです。
気の合う友人同士や、仲のいい恋人同士を観察してみると、自然とミラーリングが行われていることに気づくと思います。気の合う人とは、仕草が自然に似てくるのです。
ラポールを築くためには、このミラーリングを意識して行っていきます。
表情も大切なポイントです。真剣な表情、明るい表情など同じ表情で合わせていきます。
基本姿勢の部分で、人間は自分と似ている存在に親近感が湧くという類似性の法則を紹介しました。鏡のように動作する相手とは、同調しているという一体感が生まれます。相手の意識にのぼることなく、反射的な動きの同調によって、「なぜか合っている感じ」が生まれるのです。
ラポール形成の達人と呼ばれる人々は、相手を細かに観察しています。相手の口もとやまばたきの速さまで同調していくのです。
もちろん、あまりに大げさにすると、相手をマネしていることがバレてしまい、不信感を抱かれて逆効果になりかねませんので、注意が必要です。
相手より少し遅れて合わせるくらいの自然な流れで行うのが現実的です。すぐに合わせようとすると相手が違和感をもちます。

テクニック2 リズムやテンポを合わせる「ペーシング」

ペーシングとは、相手の話し方やリズム、テンポを合わせることです。相手の仕草を真似るミラーリングと違って、ペーシングは「相手の話し方」を真似ます。
話すスピードが自分とまったく合わない人と出会った経験はありませんか?
そんな相手だと、自分の理解を無視して勝手に話を進められているように感じたり、自分のペースが崩れてしまい、もどかしさや不快を感じてしまいませんでしたか?
ゆっくり話す相手にはこちらもゆっくりと話す、早口ならこちらも早口で。
これは、電話での会話などで、視覚的なミラーリングができない場合などに特に有効です。
そのためには、相手の話を引き出し、できるだけたくさん話してもらえるようにしっかりと聞くことが大切になります。話す時間が長くなれば、より多くの観察が可能になり、しっかりとペーシングできるわけです。
もちろん、声の大きさや早さというだけでなく、明るさや静けさといった会話全体の雰囲気、感情に合わせていくこともラポールの形成には必要になります。

相手の「沈黙」も、ひとつのペーシングの対象です。相手に黙り込まれると、場が持たない感じがして、思わず何かを言いたくなるかもしれませんが、相手は自分なりに何かを考えたり、想いをめぐらせているので沈黙しているのです。それを尊重するには、「沈黙」にペーシングすることになるのです。
また、クレームなどのように相手が感情的になっているような場合は、冷静な声で対応することによってますます場が悪化してしまうかもしれません。相手の感情やエネルギーにペーシングして会話を進めることを意識しましょう。

テクニック3 心理を見破る「キャリブレーション」

キャリブレーションとは、相手の心理状態を言葉以外のサインで認識するテクニックです。表向きには冷静さを装っていても、姿勢や呼吸、表情や声のトーンなど微妙なところに表れるのを見逃さないようにします。
疲れを見せないようにしている人でも、声のトーンや顔色などから疲れていることがわかってしまうことがありますよね。そんなとき、そのサインを読み取って、「なんだか顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」などと声をかけてあげるのです。
わずかな変化から相手の気持ちを読みとることで、信頼感を持ってくれやすくなります。

キャリブレーションは変化をよみとることなので、初対面の相手では使えません。
また、相手が「気持ちを悟られたくない」と思っているような場合には、必要以上に気持ちを探ろうとすると嫌われてしまうことがあります。

テクニック4 オウム返しをする「バックトラッキング」

バックトラッキングとは、相手が使った言葉をそのまま繰り返して会話を進める手法です。いわゆる「オウム返し」ですね。改めて繰り返すことで、相手の話をちゃんと聞いて受け止めていることを伝えます。特に、聞いてほしい話を相手がしている時に使えば、より効果的です。
コツとしては、「言いたいこと」や「意味」ではなく、あえて「言葉そのまま」を返す、というのがポイントです。次のような返し方は不完全です。

「家族は大事だよね」→「家庭は大事ですよね」
「仲間は大事だよね」→「友達は大事ですよね」
「ビジネスでは結果が大事だからね」→「仕事は結果が大事ですからね」

「家族」「仲間」「ビジネス」といった言葉はきちんとそのまま活かさなければ、バックトラキングにはなりません。ただし、不自然な会話にならないようにしましょう。
また、相手との無意識の距離を悟られないように、できれば語尾を同じにして言い返すのもコツのひとつです(上記の例では、「~だよね」に対して「ですよね」と返しています)。

バックトラッキングによって「自分の話を聞いてもらえている」という安心感、「自分のことを理解してくれている」という信頼感、「大事にしてもらえている」という充実感が生まれます。さらに、

  • 相手の話した事実
  • 相手の話した感情

を反復し、

  • 相手の話を要約し、確認する

ことによって、相手の問題や課題を理解したり、相手の側も、自分の考えや感情を整理できるという効果があります。

相手のタイプを見きわめてペーシングする

五感で分かれる3つのタイプ

人が情報を処理するとき、大きく視覚・聴覚・身体感覚の3つに分けることができますが、どの情報処理を行うかということには人によってクセがあります。つまり、何かを伝えようとするとき、無意識に自分のタイプを優先的に使って、情報を処理しようとするのです。
相手がどの感覚を優位的に使って情報を処理しているかを知るには、「目の動き」、「言葉」、「手の動き」などを観察することで見分けることができます。

  1. 視覚で情報処理するタイプ
    「話が見えない」「イメージが湧きますか?」「見通しをよくしたい」といった、イメージを重視した言葉を早口で話すタイプです。視線が上方に向いたり、頭の中にあるイメージを手の動きなどで表そうとする傾向があります。このような相手には、図や絵を活用したコミュニケーションが効果的です。
  2. 聴覚で情報処理するタイプ
    「何を言っているかわからない」「バタバタしていて忙しい」というように、聴覚を意識した言葉を使うタイプです。記憶を探るときにも「あのとき、確かにこう言った」と聴覚的な情報を引き金にします。自問自答したり、独り言をいう傾向、声の調子や言葉に反応しやすく、目を左右によく動かす傾向があるそうです。このタイプとのコミュニケーションは論理的に進める必要があります。
  3. 身体感覚で情報処理するタイプ
    話すスピードがゆっくりで、「話がつかめない」「しっくりきました」「心が熱くなった」というように、感覚に焦点を当てた言葉を使うタイプです。動きや話すスピードはゆっくりで、手を胸に当てるなど、身体の感覚を手で表現しようとします。このタイプとのコミュニケーションは、一つひとつゆっくりと進めていくのがポイントです。

このような3つのタイプを見分けられると、ラポール形成がうまくできます。
視覚タイプの人にはミラーリングが重要、聴覚タイプの人には言葉や声の調子が重要、身体感覚タイプの人には、呼吸や感情的な雰囲気等が重要です。

目的志向タイプと問題回避タイプ

情報を処理するのに目的を強く意識するタイプと、問題を回避することを優先するタイプに分類できます。

  1. 目的志向タイプ
    目的に向って情報を処理するタイプです。例えば「歯を磨くのはなぜか」という問いに対して、「歯をきれいにしたいから」「白くしたいから」「笑顔が素敵に見えるように」という答えを返します。
  2. 問題回避タイプ
    問題を避けるために情報を処理するタイプです。上と同じ問いに対して、「虫歯になりたくないから」「口臭を予防するため」「虫歯治療にお金をかけたくないから」といった答えを返します。

目的志向タイプの人に問題回避のアプローチをしても、ぴんと来ないということになります。逆もまたしかりです。

主体行動タイプと反映分析タイプ

すぐに行動するタイプか、考えることから始めるタイプかという傾向で分かれます。

  1. 主体行動タイプ
    ほとんど、あるいはまったく考えずに行動を起こす傾向があります。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「動く」「すぐに」「とにかくやる」。
  2. 反映分析タイプ
    他の人が行動を起こしたり、機が熟すまで行動するのを待つタイプです。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「検討する」「分析する」「調べる」「~かもしれない」。

反映分析タイプの職人さんに、主体行動タイプの「まずやろう!」「すぐやろう!」「今やろう!」というアプローチをしても、その職人さんはうるさく感じるばかりで、ラポールを形成することができません。
逆に主体行動タイプの職人さんに対して、反映分析タイプの「よく考えて!」「少し様子をみよう!」「分析して検討していこう!」とアプローチしても、頭でっかちで行動しないタイプと思われてラポールは形成できないのです。

オプションタイプとプロセスタイプ

物事を処理するのに、異なるやり方を好むか、正しい手順を好むかという違いの2つのタイプです。

タイプの【オプション型】と【プロセス型】の2つのタイプがあります。

  1. オプションタイプ
    今までと違ったやり方や選択肢、機会や可能性が増えることで、やる気を発揮するタイプです。物事には常により良いやり方があると考えて、他のやり方、さらに他のやり方と可能性を探求します。逆に、一つのやり方で進めていくのが苦手です。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「選択肢」「チャンス」「機会」「多様性」。
  2. プロセスタイプ
    確立された手順を好み正しいプロセスの遂行を重要視するタイプです。物事には正しいやり方があると考え、手順通りに進めていくのが得意です。手順がない仕事には戸惑ってしまうことがあります。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「確実に」「正しい方法」「はじめに~、次に~、その後~」など手順を表す言葉。

この場合も、オプションタイプのお施主様に「順番にこのやり方で決めていきましょう」と伝えても、「他にも良いやり方があるかもしれない」と他の選択肢や可能性を見つけ出そうとするかもしれません。

全体タイプと詳細タイプ

情報を「どういったサイズで処理しやすいか」の傾向を知るカテゴリーです。

  1. 全体型タイプ
    全体像や概念、また物事を抽象的に捉えようとします。話し言葉や文章は簡潔で短く、しばしば、脈略なく情報を提示します。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「本質的に」「全体的に」「一般的に言って」「大切なことは」「要は~」。
  2. 詳細型タイプ
    文字通り細かく細部にわたって理解しようとし、修飾語や副詞、形容詞、また人、場所、物の固有名詞をよく使い、話が長い傾向があります。よく使う言葉、影響を受ける言葉は「厳密に」「正確に」「具体的に」。

詳細タイプのお施主様には、ざっくりとしたおおまかな報告をしてしまうと、「状況を理解してるのか?」「ちゃんと仕事をしてるのか?」「細やかさや配慮が足りない」といったクレームを受けることにつながるでしょう。

お施主様とのコミュニケーションの架け橋「ラポール」を形成する方法 まとめ

ラポールの形成は、ふだん何気なくやっていることもありますが、着実に成果を出すためには訓練することが必要になります。テクニックに頼りすぎても成果はあがりません。
大事なのは、自分の価値観ではなく、相手の価値観を認めるということです。
そのためには自分自身とも客観的に向き合わねばなりません。自分の価値観や思考とは違うということを意識しながらも、相手の価値観や思考に寄り添うことができるわけです。
世の中には自分とは異なる価値観が存在するが、だからといってそれが正しくないわけでは決してない、ということを認識しましょう。
人を観察する癖をつけ、住宅コンサルタントとしてお施主様とより良い関係を築き、満足度を高め、仲間とのチームワークを向上させてください。