現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(2)
ロジカルシンキングを使って、家づくりにおける問題を解決してみた

現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(2)ロジカルシンキングを使って、家づくりにおける問題を解決してみた

建築の現場ではたくさんの物事が日々一気に動いていくので、常に問題が起こりやすい状況にあります。現場の職人さん、営業担当、関連会社、そしてもちろんお施主さん……。コンサルタントとしてはすべての人たちに的確な場面で的確な指示や説明をしたいものですね。

しかし、それぞれ立場も違えば考え方も違います。すべての人が「いい家づくりをしたい」と思っているはずですが、ちょっとしたことでその想いに亀裂が入ってしまいかねません。
ただでさえ多くの人が関わる家づくりなので、問題が起きてしまうことは避けられないと思います。しかしその問題に対し、感情的に向き合っているようでは一向に解決はできません。

そんなとき、解決策の一つとして役に立つ考え方が「ロジカルシンキング」です。「ロジカルシンキング」とは複雑化した問題を整理して、有効な解決策を導き出す問題解決手法です。

今回はこの「ロジカルシンキング」を使って問題を解決していく具体例をご紹介していきます。
ぜひコンサルタントであるあなたが舵を切り、問題を解決の方向に導きましょう。

「ロジカルシンキング」とは何か

「ロジカルシンキング」はすでにビジネスの基本ともいえる手法なので、聞いたことのある人も多いと思います。
「ロジカルシンキング」とは、“ロジカル=論理的”+“シンキング=思考”という意味で、問題を論理的に整理・分析し、問題解決の道筋を立てるというものです。すると、一見難しそうな難題でも、その因果関係が見えてきて解決のために何をすべきかはっきりと認識することができるのです。

これは特に多くの人が関わる問題においては、互いに問題点を共有・理解することができ、とても有効な方法です。建築の現場では様々な人が関わることが多いので、「ロジカルシンキング」が大いに活用できそうですね。

「ロジカルシンキング」で問題を解決していくためには、論理的な考え方をできればいいわけですが、論理的思考がすでに身に付いている人ばかりではないと思います。しかし、その方法さえわかれば誰でも簡単に使うことができます。具体的には、「分析」と「説明」の2つの要素をクリアすれば、「ロジカルシンキング」がより活用しやすくなります。

「ロジカルシンキング」を使って問題を分析する

ロジカルシンキングを実践するにあたり、まずは問題を整理するところから始めましょう。
最初にすべきことは、問題から「事実」のみをピックアップすることです。実は、問題の中には「事実」と「それ以外のこと」が複雑に混ざり合っている場合が多いのです。
「それ以外のこと」にあたる個人の感想や解釈はいったん排除し、問題の本質を導き出してください。余計なものは剝いで、シンプルに事実のみに目を向けましょう。

次に、曖昧な表現があれば、その表現を具体的にわかりやすくしていきます。
そもそもはっきりとしない言葉が並んでいては、相手に伝わるものも伝わりません。例えば「適切な」や「徹底的に」といった表現は要注意です。どれくらいが「適切」なのか、どこまで行けば「徹底的」なのか、具体的に表示してください。

「ロジカルシンキング」を使って相手に伝える

そこまでできたら、今度は相手にそれを伝えるためのストーリーを組み立ててみましょう。
せっかく問題が見えてきても、それを共有できなければ何の意味もありません。ロジカルシンキングでは、相手に伝えるための説明力も大切になっていきます。

説明方法の最も大切なことは、最初に「結論」から話すことです。「私が言いたいことは○○です」と最初に伝えることで相手も話のゴールがわかるので、説明が頭に入りやすくなります。

その結論が伝わったら、「なぜなら……」とその理由を繋げていくといいでしょう。理由がはっきりするので相手が納得しやすくなります。

そしてその後に「すると……」と未来の話をしてみてください。それにより、一層説明に深みが出て、説得度が増していきます。

例えばグループでどこに旅行に行こうか決めかねているという場面を考えてみましょう。
ロジカルシンキングを使って説明するのであれば、

(結論)「私は温泉がいいと思います」

(理由)「なぜなら、誰もがゆっくりできるからです」

(未来の話)「すると自然と笑顔が生まれるでしょう」

という順番で説得ができることになりますね。

この時に、「温泉は楽しくなさそう」だとか「行くまでに疲れそう」といった個人的な解釈も出てくると思います。しかしロジカルシンキングを行う上ではいったん省くようにしてくださいね。

頭の中で考えるのが苦手な人は、紙に書いて整理するのもいいと思います。

ロジカルシンキングに関してはたくさんの本が出ていますが、日ごろのトレーニングによって身につけることができます。
日常生活の出来事でも、常に整理・分析してロジカルな思考に自ら持っていくよう心がけてみてはいかがでしょうか。

実践例:ロジカルシンキングで、家づくりにおける問題を解決する

それでは家づくりを進めていくにあたり、「ロジカルシンキング」が具体的にどのような場面で役立つのかを見ていくことにしましょう。
問題は大きくなればなるほど余計な遠回りをしてしまいます。しかし家づくりは時間との勝負でもあります。コンサルタントとして問題を的確に分析し、正確な指示や説明ができるよう現場を仕切ってくださいね。

事例1:お施主さんと職人さんの間で意見が食い違ったケース

お施主さん 「もう設置してもらったのに申し訳ないのですが、やっぱり階段下に収納をつけてくれませんか? お客さんのことを想うのならやってくれますよね……?」
職人さん 「設置後の変更は、壁に再度穴をあけることになるからあまりおすすめしませんね。そもそもこちらも忙しいんです」

職人さんとお施主さんが直接話し合うことは少ないかもしれませんが、このような意見がコンサルタントに届くことは多いと思います。
両者の意見は分かります。コンサルタントしてはお客さまの希望も叶えたいですが、設置後の変更はリスクも伴うでしょう。今回は設置をしないほうが賢明な判断といえそうです。

経験と知識が豊富な職人さんにとって、お施主さんの意見は、時に問題を複雑化させてしまう場合もあります。しかしそれは仕方のないことです。お施主さんは家のプロではありませんから、わからないことだらけなのです。

ただ、もしお施主さんのことも考え、職人さんの意見が正しいと思うのであれば、きちんとお施主さんが納得できるように説明をすることが大切です。論理的な考え方で両者の助けとなるように活躍して下さい。

解決策:

ロジカルシンキングで、家づくりにおける問題を解決するそれではこの問題を「ロジカルシンキング」によって解決していきましょう。
まず、両者の意見から個人的な解釈や曖昧な言葉を抜いていきます。
上記の事例では、お施主さんの「申し訳ない」「お客さんのことを想うなら~」という部分が個人的な解釈ですね。さらに職人さんの「あまりおすすめしない」というのも曖昧な表現なので、もっと具体的に直す必要があります。「そもそもこちらも忙しい」という言葉も、個人的な解釈になりますね。
こうして個人的な解釈や曖昧な言葉を抜くと、事実は下記のようになります。

  お施主様「階段下に収納を設けたい」
  職人さん「設置後の変更はおすすめしない」

では早速、これをもとにストーリーを組み立てていきましょう。
まず、なぜ「おすすめしないのか」というと、もう完成している階段下を再度組み立て直すことによって、余計な穴が残ってしまうというリスクがあるからのようです。
また、階段下の収納は結露が起こりやすくなるという問題も出てきます。これは、職人さんが言っていた「あまりおすすめしない」の「あまり」の部分を具体化したことになります。
これではお施主さんにとってもメリットはそこまでなさそうです。
ならば、階段下の収納は“設置しない”という方向でお施主さんに話す必要があります。
しかし長々と話してしまっては、伝わるものも伝わりません。簡潔に言いたいことをまとめましょう。

(結論)「階段下の収納の設置はしないほうがいいと思います」
(理由)「なぜなら、再度組み立て直すことによって壁に余計な穴をあけてしまうリスクがあるからです。それに、階段下の収納は結露が起こりやすくなるので、おすすめできません」
(未来の話)「階段下の収納がない分、家の空気循環が良くなります。家の寿命も増していきますよ」

このようにストーリー立てて説明することで、相手の納得度も増すのではないでしょうか。
もちろん、言い方には気をつけてくださいね。あなたがコンサルタントとしてきちんとお施主さんのことを想って導き出した答えですから、淡々と話して冷酷な印象を残すことのないように注意してください。

事例2:納期が間に合わないと現場から声が届いたケース

職人さん「天気が悪くて作業できないこともあるし、仕事が多すぎて納期が追いつかないよ。最近は休憩時間を短くして仕事をしていることだってあるんだ。納期をもっと延ばしてほしい」
あなた(コンサルタント)「申し訳ありませんが、できるだけ納期を伸ばさない方法で作業をしてくれませんか」

今度は職人さんと、それを管理するあなたとの問題です。
これも良くある事例の一つで、どうしてもスケジュール通りに物事が進まず、現場にフラストレーションが溜まってしまうパターンです。
職人さんたちは本気で取り組んでいるからこそ、手も抜きたくないはずです。しかし工程の変更や天気によっては作業が遅れてしまうこともあり得ます。この問題は感情が入り込みやすいものですが、ロジカルシンキングに頼れば、簡単に解決できますよ。まずは冷静な整理と分析が必要です。

解決策:

ロジカルシンキングで、家づくりにおける問題を解決するそれではこの問題も「ロジカルシンキング」によって解決していきましょう。
まずは事例1と同様に、曖昧な表現や個人的な解釈を見つけて削除していきます。

今回の場合、職人さんの「仕事がありすぎて納期が追いつかない」は曖昧な表現です。どれだけ仕事があるのか、どれだけ納期が追いつかないのかをはっきりさせる必要があります。「最近は休憩時間を短くして仕事をしている」という部分も、1週間のうちにどれだけ休憩時間を短縮している日があるのか、そして具体的には何分くらいなのか、具体的な数字が欲しいところです。「納期をもっと伸ばして欲しい」も、具体的には何日間あれば間に合うのかを知らなければなりません。

また、あなたの「できるだけ納期を~」という言葉、どれくらいだったら納期を引っ張る余裕があるのかはっきりしません。「申し訳ない」という部分も、気持ちは分かりますが、事実ではない個人的な意見なので、いったん削除しましょう。

すると、下記のような意見が導き出せます。

職人さん「悪天候が原因で仕事が追いつかないから、納期を伸ばして欲しい」
あなた(コンサルタント)「納期は伸ばせない」

それでは、事実がはっきりしたところで、そのストーリーを立てるための具体的な要素を明確にしていきましょう。
職人さんたちの遅れが今現在でどれくらいなのか、昼休みを削らずに健全な働き方をしたとき、どれくらいの日数があれば足りるのかを明確化していきます。
その上で職人さんたちの仕事のスピードはどうなのか、一つの仕事にかけられている人数は適切か、再度見直してみてください。
すると、どれくらいの納期の延長が適切であるのかが見えてきます。

ストーリーはこのようになると思います。

(結論)「2週間だけなら、納期を延ばすことができます」
(理由)「仕事の効率化をはかれば、十分その期間で事足ります」
(未来の話)「すると、お施主さんの満足度も上がり、結果的に職人さんたちへの感謝も増すはずです」

もちろん(理由)の部分は、あなたが導き出した具体的な方法を付け加えて説明してくださいね。
例えば「〇〇の仕事は1人で十分だから、△△の仕事に人数をかけるようにしてほしい」といった方法や、進め方を変更して、「先に○○の部分をやって欲しい。すると△△の部分は雨の日でも行える作業だから、納期も詰めることができるはずだ」という方法が出てくると思います。

さらに納期が遅れるわけですから、なぜ納期が遅れるのか、しかしそれによってどのような利点がもたらされるのかをきちんとお施主さんに説明してあげてください。
例えば、「2週間作業が遅れます(結論)。なぜなら天候不良が続き作業に遅れが出ているからです(理由)。しかし、一生に一度の家づくりのため、確実な作業で強い家をつくることができます(未来の話)」という具合ですね。これに、あなたなりの具体的な理由を添えて説明しましょう。

申し訳なさを伝えることは、ロジカルシンキングを行う上では余計な要素になります。
問題を解決するためには一度感情的な部分は削除し、説明をする場面ではきちんと謝罪の気持ちを伝えるなど上手な使い分けをしてください。

「ロジカルシンキング」の応用編

ここでは基本的な考え方を紹介しましたが、いざ実践をしていくとなると、もう少し問題は複雑化しているかもしれません。
その時、さらに踏み込んだロジカルシンキングの方法として、「フレームワーク」というものを覚えておくといいかもしれません。
フレームワークとは、枠組み・型のことを言い、思考のプロセスを決まった型にあてはめて考えることで、問題をより細分化し、抽象的なものをより具体的にしていく方法です。

フレームワーク(枠組み)には、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)を繰り返す「PDCA」をはじめ、問題を細分化し、欠けているもの、だぶっているもの、種類が違うものを判別していく「MECE(ミーシー)」など、例をあげればきりがないほど挙げられます。
その中でも最も使いやすいフレームワーク(枠組み)が、「ロジックツリー」です。
「ロジックツリー」には「Whyツリー」と「Howツリー」の2つのタイプがあるのですが、この2つは、考える対象が違うだけで、使い方は変わらないので一緒に覚えてしまうといいでしょう。

まず、「Whyツリー」とは、問題の原因を絞り込んでいく方法です。
現在持っている情報に「So Why/Why So?(だから何?)」と何度も問いただすことによって結論を導き出していきます。

また「Howツリー」は、問題の解決策を絞り込む方法です。
問題の解決策を見つけるために「How?(どうやって?)」と、何度も問いかけ具体的な解決方法を考えながら分析していきます。

ロジックツリーを展開する際には、現在持っている情報をまず確実に分析することが大切です。この時に、漏れがあったりだぶりがあったりすると、「Why?」や「How?」と展開していく意味がありません。
その時、先述した「MECE(ミーシー)」を使うと、多くの要素を漏れなく引き出すことができるのでとても便利です。

多々あるフレームワークは、自分に合ったさまざまな要素を組み合わせることによって、より確実に問題が解決に向かうでしょう。

MECEについてはこちらの記事で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてくださいね。 → お施主様の課題をMECEで解決しよう

プラスアルファのロジカルシンキング

参考までに、ロジカルシンキングの中には、事実から推理する「推論」というものも存在することも紹介しておきます。

推論には「演繹法」と「帰納法」の2通りの方法があります。
「演繹法」とは「~だから、〇〇である」という手持ちの理論から推理をし、それにある情報を加えることによって予想を立てる方法です。
例えば「彼は果物が好きだ→りんごは果物だ→だから彼はりんごが好きであろう」というふうに使います。

また「帰納法」は手持ちの情報からある理論をつくり、新たな予想を立てる方法です。
例えば、「果物のりんごは甘い→果物の苺も甘い→共通項は「果物」だ→果物は甘いのでは」となっていきます。

正確かつ全てを把握して推論を立てることは困難ですから、何度も再構築する必要があります。
また、導き出した「予想」はあくまでも予想に過ぎず、事実ではないという欠点もありますね。
ただし、未来をイメージしやすくなる点では、お施主さんに説明するときに非常に有効となると思います。
ロジックツリーについては、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてくださいね → 住宅業界のコンサルタントとして真の原因や解決策を発見できる「ロジックツリー」
また、因果関係を正しく分析するためには、PAC思考も身に着けたほうがいいでしょう。こちらは、「見落としがちな「仮定」の落とし穴を疑う「PAC思考」を身につけよう」という記事を参考にしてください。

まとめ

多くの人が関わる家づくりは、問題が出てきてしまうことも多々あります。しかしそんな場面で解決方法を導き出せるのは、他ならぬコンサルタントであるあなたです。
感情的になってしまう場面もあると思いますが、冷静になって問題を分析し、適切な解決方法を導いてください。
そのことが、最終的には多くの人を混乱させない有効な方法に繋がっていくはずです。