現場で使える思考モデル・心理学シリーズ(4)
行動経済学のテクニックを見破れ!

家はデパートなどで売られている商品とは違い、多くのお施主さんにとって一生の買い物となるものです。そのため、本当にその買い物がよかったのかは家が建ち、実際に住んでみてからでないと分かりません。
その場限りの広告やイメージに囚われて購入しても、その時は満足するかもしれませんが、将来的には「〇〇が違った」「〇〇は聞いていなかった」などと、顧客満足度が低下してしまうことがあります。
住宅はじわじわと満足感を得ていく買い物なので、まさにそういったことが起こる可能性が高いと言えるでしょう。

では、住宅のコンサルタントとして、お施主さんが満足できる家づくりのために、あなたはどのようなことができるのでしょうか。
今回は、セールスやマーケティングにおいて広く応用されている「行動経済学」の概要を紹介します。

といっても、コンサルタントは、お施主さんにとって「セールスマン」でなく「よきパートナー」です。
お施主さんがベストな選択を見つけていかなければならない家づくりにおいて、住宅に関わるコンサルタントとして、セールスをする側ではなく、お施主さんの立場に立って、正しい選択肢に導いてあげることこそ、良い関係性を生む道にほかなりません。
行動経済学の理論を理解していれば、お客様がセールスやマーケティングの巧みな考え方に惑わされず、ベストな選択ができるようにアドバイスをできることでしょう。
お客様を導くコンサルタントとして、ぜひ基礎的な知識を身につけてください。
相手の立場になって考えることのできる、一生お付き合いができるパートナーとなることが、コンサルタントとしての目標です。

「行動経済学」とは何か

上でも述べたように、「行動経済学」は、効果的なマーケティングを行う上で無視できない存在となっています。
特徴としては、従来の経済学に“人間の感情”という要素を入れて導き出されているという点です。

人間というものは、性質や、自分が置かれている状況に影響される生き物です。
具体的にはそれらがどのように影響し、どのような選択や行動をする傾向があるのでしょうか。
それを分析し、解き明かしたものが行動経済学なのです。
人間の認知や意思決定の特徴を明らかにすることになりますので、行動経済学を理解すれば、人々が満足のゆく生活を送り、幸福であるためにはどうしたらよいかを考えるきっかけにもなり得ると言われています。

そもそも「経済学」自体、人間は合理的な生きものであるという前提で世の中の経済を数値化する学問ですから、感情による意思決定に目を向けた「行動経済学」は、より現実的な考え方と言えるでしょう。

行動経済学の始まりは18世紀にまで遡ります。
2002年に行動経済学者のダニエル・カーネマンがノーベル経済賞を受賞しており、今でも多くの行動経済学研究者による無数の理論が存在しています。
ここでは、その中でも特に押さえておきたい理論をピックアップして説明していきます。しっかり理解して、お施主さんのベストな選択肢をサポートできるようになりましょう。
家づくりにおいては、ベストな選択は何かをお施主さんとともに探していくことになります。
そんなとき、住宅に関わるコンサルタントとして、セールスをする側ではなく、お施主さんの立場に立って、正しい選択肢に導いてあげることが良い関係性を生む道です。
あなたがこれらの理論を理解していれば、お施主さんにとって、セールスのテクニックに惑わされずに真に助けとなるアドバイスをしてもらえる存在になれるでしょう。
その反面、セールスやマーケティングばかりではなく、お客様のパートナーとしてのコンサルタントとして、これらの理論を応用することもできます。その応用のしかたについては、別記事であらためて紹介します。

フレーミング理論

行動経済学の中でも、特に有名な理論が「フレーミング理論」です。
これは、情報の内容は同じでも、物事は見る角度や判断する角度によって印象が大きく変わる現象のことです。

建築の現場では、間取りだけをはじめ、ドアの色や浴槽の種類に至るまで、様々な場面でお施主さんに決めてもらわなければならないことがあります。

このとき、実際に使ってみなければ分からない商品などは、参考までに、同じような買い物をした人たちの満足度のデータを提示してあげると、お施主さんにとってとても役に立ちます。
そのデータを見せるときに、どの部分を基準として、どの部分の数字データを見せるかによって、お施主さんが感じる印象は変わってしまいます。
例えば、「浴室暖房」の満足度を軸にして、「設置した人の20%が後悔をしています」という宣伝コピーより、「設置した人の80%が満足しています」というコピーのほうが、満足度が高さが印象づけらるのです。

プロスペクト理論

「プロスペクト理論」とは、「人間は利益を得られる場面ではリスク回避を優先し、反対に損失を被る場面では損失をできる限り回避しようとする傾向がある」という心理学理論です。

これだけではわかりにくいですが、クジにたとえた説明がよく使われます。

(A)引けば必ず100万円が手に入るクジ
(B)当たれば200万円が手に入るが、外れたら1円ももらえないクジ

という2つの選択肢があったとき、多くの人は、確実に100万円をもらえる(A)の選択肢を選びます。しかし、借金が200万円あるとして、こんな選択肢だったらどうでしょうか。

(A)引けば必ず借金が半分の100万円となるクジ
(B)当たれば借金は全額免除になるが、外れたら借金の額は変わらないクジ

この場合、ほとんどの人が(B)を選ぶそうです。
人間は、同じ情報であっても、利益と損失を前にすると損失の方の印象が強く残り、それを回避するための「損失回避性」と呼ばれる行動に出やすくなるそうです。
また、同じような状況でも、「感応度逓減性(かんのうどていげんせい)」といって、利益と損失の差が大きくなるほどその感覚が鈍ることもあるようです。
例えば、町内で売られている1,000円のTシャツが隣町では300円で売られていたら、ほとんどの人が隣町まで買いに行くと思います。でも、1万円のコートが隣町で1万1,000円で売られていても、わざわざ出向く人は少なくなります。

このように利益と損失を評価する選択をする際、人間が印象によって左右されてしまうことを利用したマーケティングが広く行われています。

現状維持バイアス

プロスペクト理論と同じように損失を回避する行動として、「現状維持バイアス」という理論があります。
これは、将来的に得をする可能性が損をする可能性を上回っても、人は変化よりも現状維持を選択する傾向があるという理論です。

例えば、

  1. 今すぐに1万円もらう
  2. 1年後に2万円をもらう

という選択肢があるとき、約90%の人が「今すぐに1万円もらう」ほうを選ぶことが、実験で明らかになっています。

「現状維持バイアス」を理解し、人間のこうした傾向に目をとられてしまうと、ものごとの効用を最大化するような的確な判断ができないことがあります。
特に家は一生の買い物です。目先の損失や利益だけではなく、何十年というスパンで考え、お施主さんが幸せな暮らしをしていくことが大切です。
なかなか気がつきにくいかもしれませんが、勝手な先入観を意識的に取り払う必要がありそうです。

アンカリング効果・選択回避の法則・極端性回避

難しそうな言葉が並んでしまいました。
これらは、消費者の心理を利用したマーケティング理論で、様々な場面で応用されています。

「アンカリング効果」とは、値引き効果を見せることで、そのもの自体がお得であるように感じさせる効果のことです。
1台10万円のテーブルセットが5万円に値引きされていたら、人間は勝手に心の中で価値基準を作り、値引き後の価格をとても魅力的に感じてしまいますね。
でも、そのテーブルセット自体にそもそも5万円の価値はあるでしょうか。
インテリアはお施主さん自身が選ぶことが多いと思いますが、コンサルタントや担当者が直接相談を受けたり、一緒に買いに行ったりすることもあると思います。そんな時に、あなたが冷静にその品の価値を見分けることができる目を持っていれば、お施主さんが買ってから後悔することも避けられます。

「選択回避の法則」とは、人間は多くの選択肢があるとかえって判断がしにくくなることです。
また、「極端性回避」とは、人はいくつかのグレードがあると、必ず真ん中のグレードのものを選ぶ傾向にあることを言います。松竹梅の3つの選択肢があると「竹」を選ぶ人が多いことから、「松竹梅理論」とも呼ばれています。
あなたがレストランでメニューを選ぶとき、メニューが100種類もあったら、迷ってしまうことになりませんか?
また、10,000円、5,000円、3,000円のコースがあったら、なんとなく5,000円のコースを選んでしまうのではないでしょうか?

多くの選択肢があると、自分にとって最高の選択をしたいお施主さんにとっては、後で、「選ばなかった選択肢」について悩んでしまうことがあり、それが満足度を低下させてしまうことにつながります。
こちらでお施主さんのためになる選択肢をある程度絞りつつ、「極端性回避」に左右されないように、お施主さんの決定のフォローをして下さい。

行動非行動の法則

「行動非行動の法則」にも簡単に触れておきましょう。
これは行動したことによる後悔よりも、行動しなかったことの後悔のほうが、後悔の度合いが大きくなる現象です。

例えば、予算を5,000円と定めて買い物に行ったとします。
欲しいと思った商品が5,000円を大きくオーバーしていたらどうしますか?
このとき、無理をしてでもその商品を買ったほうが、買わなかったためにその商品が品切れになり手に入れられなくなってしまった場合よりも、後悔の度合いが少なくなるのです。
人間には「保有効果」という傾向もあり、その商品が自分のものになると、買ったことに対する後悔は薄れていきます。

家づくりにおいては、少々パターンが異なるかもしれません。
ガレージハウスに憧れて、住まいのスペースを少々削ってガレージを設置したとします。
家づくりは金額も大きいものですから、その家に住んでいる限り、その選択のことがずっとついて回ることとなるでしょう。必ずしも、「多少無理してでも買ってよかった」とはならないのです。

インテリアなどの小物類であれば、こういった現象があることを覚えておき、後悔をしないようなアドバイスができるかもしれませんね。

まとめ

「行動経済学」は何かを売るためではなく、その理論を知っていることでお施主さんの立場に立った提案ができ、お施主さんの満足度も上がります。それが結果として会社の評判を良くしていくことに繋がりますね。
ぜひ「行動経済学」をよく理解し、セールスのテクニックを見破り、お施主さんに信頼できるコンサルタントを目指してください。