「ゼロベース思考」を備え、クリエイティブ性を高めてみる

「ゼロベース思考」を備え、クリエイティブ性を高めてみる

家を建てる人の想いは十人十色です。それぞれに「こんな家に住みたい」といった夢があり、ライフスタイルも違うので、住宅のコンサルタントはその想いを汲み取って、形にしたいものですね。

これまでの経験や実績は大変役に立つものですが、それらがかえってコンサルタントのクリエイティビティを阻んでしまうこともありえます。
経験や実績が思わぬ形で既成概念となってしまい、新たに生まれるはずのアイデアや目標が誕生しないとしたら、それはとても残念なことです。

では、いつまでもクリエイティブなアイデアを持ち続けるにはどうすればいいのでしょうか。
「ゼロベース思考」と言いますが、これまでの常識をすべて取り払う思考を持ってみましょう。
経験を積めば積むほどゼロベースで考えることは難しいものですが、だからこそ意識して既成概念を取り除き、常に新鮮な気持ちでお施主さんと向き合っていきたいですね。

今回は、住宅のコンサルとして必要な「ゼロベース思考」について紹介していきたいと思います。

簡単なようで難しい、「ゼロベース思考」とは

「ゼロベース思考」とは、その名の通り、頭の中をいったん白紙にして、ゼロからものごとを考えることです。
人間は生きていればたくさんのことを経験し、常識を身につけていきます。しかしその経験や常識は果たして正しいのか、それを疑い、いったんすべて捨ててみる思考が、「ゼロベース思考」です。

言葉で言うと簡単に聞こえてしまいますが、実はこの既成概念を取り払う作業は、非常に大きなエネルギーを要します。
というのも、私たちは日々、帰納法によって、手持ちの情報からあらゆることを「予想」しながら、生きているからです。

分かりやすい例で考えてみましょう。
特にこのことに気づかされるのは、子どもと接しているときです。
まだ知識や経験の少ない年齢の子どもたちは、
「どうして太陽は東から昇って西に毎日沈むの?」
「どうしてお腹は空くの?」
などと、大人にとっては当たり前の疑問を持つことが多々ありますね。
でも、大人にとっては太陽が東から西に沈むことはずっとそうだった「経験」によって得られた情報で、常識です。
ですから、そんな疑問をぶつけられても、これまでの経験から帰納法によって「明日も太陽は東から西に沈む」と考えるのですが、本当にそうだという確証は、じつは持っていません。
お腹が空くことも同様です。
私たちは毎日お腹が空いているからといって、明日も本当にお腹が空くのか、それは誰も知り得ません。

このように、帰納法によって導き出される、ある程度予想されてしまう考えを根本から見直し、すべての情報を取り払うことが、ゼロベース思考には必要となるのです。

このゼロベース思考を身につければ、一定の視点ではなく、様々な視点からもものごとを考えることができるようになります。つまり、マニュアルに囚われない行動ができるようになるわけです。
すると、イレギュラーな事態にも迅速に対応でき、いくつかのオプションを自分の中で持つことができます。

さらに、ゼロベース思考は、人に説明をするときにも有効です。
自分の経験が知識や常識となって備わると、知らないうちに自分視点で語ってしまい相手が分からないこと、相手にとって難しいと思うであろうことに目を向けられなくなってしまいます。
しかしゼロベース思考を身につければ、まったくゼロの状態で相手と同じ目線に立って説明をすることができるので、状況がきれいに整理され説得力が増していきます。

常識を破ることは大変勇気がいることでもありますが、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなど、ビジネスで成功をおさめている偉人は、皆、変人と言われるほどに常識を疑い、世にイノベーションを巻き起こしてきました。
もちろん経験や常識をすべて否定すべきではありませんが、常識がどれほどあなたの考えを押しつぶしているのか考えてみる価値はあるのではないでしょうか。

「ゼロベース思考」は普段の“ちょっとした”心掛けで訓練できる

それではゼロベース思考を身につけるためには、どのようなことをしていくべきなのでしょうか。具体的に考えてみたいと思います。

まず、自分の考えを分析し、そこにある「あるべき論」を見つけて、捨てることから始めましょう。
この「あるべき論」は、日常に嫌というほど潜んでいます。常に自分の意見を分析してみれば、発見することができます。

最も有効な材料は、たとえば日々のニュースの中にあります。
例えば「消費税アップに反対」というニュースが流れた際、自分がどう思ったかを分析してみてください。
そのニュースを聞いて「自分は消費税アップに賛成だ」と思う人もいるかもしれません。
でも、消費税が社会に必要だという考え方こそ、「あるべき論」であり、それこそが排除されるべき既成概念となります。

大人として生きていれば、消費税が我々の生活に必要な税であることは理解しています。
そのため、消費税をアップするかそのままかという部分のみに焦点を捉えてしまいがちです。
でも、そもそも消費税とは何なのでしょうか。
なくてはならないものなのか、消費税のない社会も作れるのではないだろうか。
あるべき論を捨てて、そう考えてみてください。

自分の頭をゼロベース思考にもっていくには、繰り返しの訓練と慣れが必要です。
つねにものごとを疑うのは難しいかもしれませんが、こういったニュースをきっかけに、1日ひとつずつこなしていくことで、より考え方が柔軟になっていきます。

もし自分の頭の中だけで完結させてしまうことが不安なら、他人にその理論の分析を聞いてもらうことも有効です。日本で生まれ育ってきたなら、同じ常識に囚われてしまっているかもしれませんが、少なくともいくつかは異なる視点を持っているはずです。そのことを意識して互いに既成概念を見つけ合いましょう。

また、なかなか既成概念から外れないという人は、いったん“別の自分”を作ってみるのも、いいかもしれません。
自分が導き出した答えに自身で疑問を投げかけ、自問自答を繰り返してみてください。

「ゼロベース思考」を使った提案で、ワンランク上のコンサルになる

このゼロベース思考は、もちろん住宅の現場でも大いに役立ちます。

「やっぱりもうちょっとリビングを広くしたい」
「ガレージを作りたい」

お施主さんから、そんな思わぬ希望がをいただいたときには、その希望を叶えるべく、思考をゼロにして考えてみると、お施主さんのための新たなアイデアが浮かぶかもしれません。
しかし、住宅業界のコンサルタントであるなら、お施主さんからのアクションがあって初めて動くのではなく、いったんはお施主さんとの間でまとまった決断を自ら疑ってみることをしてみてください。
そうすることで、プラスαの提案ができます。

例えば、お施主さんとの間で
「今は車は1台だけれど、今後のことを考え余裕を持って2台分が入るガレージを作りましょう」
という考えがまとまっていたとします。
お施主さんも「2台分のスペース」を提案してくれたコンサルに対し、感謝をしています。

しかしここでワンランク上のコンサルを目指すのであれば、「そもそもガレージは必要か」ということに焦点を当ててみましょう。ガレージが必要という考えのもとに話し合いを進めてきましたが、もしかしたらガレージそのものが不必要かもしれません。

近くの駐車場を借りれば、ガレージ分のスペースが庭になり、ガーデニングが楽しめるかもしれません。
するとそのお施主さんの生活もより豊かになりますね。
それに、実はそのほうが長い目で見ても費用が抑えられるかもしれません。

極端な場合には、そもそも車自体を持つ必要がないかもしれません。
つきつめてみたら、車はあまり使っておらず、自転車や徒歩での生活にしたほうが、より健康的な毎日を送ることができます。

ゼロベース思考を意識しただけで一気にクリエイティビティが高まり、ここまで多くの別のアイデアが生まれる可能性があることは一目瞭然ですね。

また、こういったアイデアが生まれると、
「なぜがガレージが必要か」
「お施主さんはどういったライフスタイルを好むのか」
ということも自然と考えなければならなくなります。
それにより、より深い提案ができるようになります。
それによってお施主さんの満足度も非常に高くなるはずです。

ここで注意しなければならない点は、お施主さん自身も常識に囚われている可能性を否定しないことです。
お施主さんは住宅のプロではないので、時に思いもしないアイデアをくれることもあるかもしれません。
でも、どのお施主さんも、家は一生に一度の買い物ですから、ある程度の知識を本などから学んでいることでしょう。
独自に学んだことにより、その知識が100パーセントであると思ってしまう可能性もありますから、お施主さんに意見を求めるよりも、コンサルタントが自ら動いてみることが重要なのです。

まとめ

住宅のコンサルタントにとって、お客様との関係は特殊かもしれません。
小売りのセールスならば、消費者は、すでにできあがったものを見て購入するかどうかを決定しますが、住宅の場合は、そうはいきません。まだ存在してないものに対して、お客さんはお金を支払います。ある意味、賭けのような買い物とも言えるでしょう。

だからこそ、住宅のコンサルとしては、求められた以上のものをつくり、「信頼を買ってくれた」お施主さんの期待に応えていく必要があります。
難しい業界ではありますが、だからこそやりがいのある仕事です。規制の概念に囚われず一回一回違ったアイデアで、そのお客さんにとってのベストの提案をしていってください。