目に見えない施主の不満をくみ取るためのコツとは?

山梨県の老舗工務店トップホームズ様の公式サイトでは、工務店の立場から、「いい現場監督はお客様目線を持っている」と書かれています(「家づくりの成功・失敗を分ける「現場監督の良し悪し」とは?」)。

現場監督として仕事をしていく中で、どんなに誠意を持って対応し、真剣に取り組んでいても、すべての施主に完全に満足してもらうことは、非常に難しいことです。中には不満を抱いてしまう施主も出てくるでしょう。家は人生で最も高い買い物ですから、たとえ細かいことでも非常に気になってしまうものなのです。
施主がまったく不満を持たないように完璧に対応できるなら、もちろん、それにこしたことはありません。とはいえ、そうとばかりもいかないことがあるでしょう。そんなときの対応こそが、現場監督としての腕の見せ所ででしょう。

ここでは、目に見えない施主の不満をくみ取るためのコツについてお教えしましょう。

施主の不満はどう変化するか

施主が抱きやすい不満には、どのようなものがあるのでしょう。
建築の現場で働いていると、そんなことで?と思うような小さなことが原因になるケースも少なくありません。
たとえば、

  • 施主からの質問に対して説明不足だった
  • 隣の敷地に資材がはみ出してしまっていた
  • 現場まで見学に来た施主に挨拶がなかった

こんな“小さな”不満を放置したために、やがて大きなクレームに発展することがあるのです。
小さな不満であるうちは、施主もはっきりと言ってくれない場合も多く、つい油断してしまいがちです。
しかし、こういった小さな不満、クレームの種のようなものがあった現場で、もし施工ミスが起きてしまった場合はどうなるでしょう。事態はたちまち深刻なものに変化してしまうかもしれません。

自分がどこかのお店に行った時のことを考えてみてください。
対応が良く清潔で親切な店員さんのいるお店で何かミスがあったとしても、それを厳しく追及し、クレームをつけ、揉めに揉めて収拾がつかなくなってしまう可能性は低いのではないでしょうか。
でも、反対に態度が悪く、掃除も不十分で、店員の態度が悪いようなお店でミスがあったらどうでしょうか?
それには厳しいことのひとつふたつ言いたくなる人が多いのではないでしょうか。
施主の小さな不満が大きなクレームに発展してしまうという現象は、これと同じです。

施主の不満が大きくなる前に

こういったケースは、ちょっとした注意や気遣いをしていれば、未然に防げるかもしれません。しかし、まずは施主が不満を抱いていること自体にいち早く気づけなくては、どうにもならなりません。それが小さな不満であるうちに施主が言葉に出してくれれば良いのですが、なかなか口に出して伝えにくい、という人もたくさんいます。建築とは関係ありませんが、「店で不満を感じることがあっても、96%の人は直接伝えることをしない」というデータをご存じでしょうか。まさに、「黙っているお客さんほど怖いものはない」のです。
ただ、こういった不満は、注意すれば察知できる場合もあります。
直接に不満を口にしなかったとしても、その気持ちが完全に態度に出ないようにすることも難しいからです。本人の意識とは別にサインとして表れていることがあるため、あなたはそれを見逃さないようにしなければなりません。

“不満を感じている人”は、仕草、目線、表情にサインが表れやすいので、注意してみましょう。
分かりやすいのは、

  • 眉をひそめている
  • 目で訴えかけている
  • しきりに何かを気にするそぶりをしている

といったサインでしょう。
不満の原因となるなんらかのできごとが起こった後、それまでと態度がどことなく違っている、声の調子が変わったなど、小さくても違和感を感じたら要注意です。施主の目線、動き、表情などには十分に気を払いましょう。

注意して誠実に対応しても大きな不満となるケース

厄介なのは、現場監督が真摯に対応しているのに、施主の不満が大きくなってしまうようなケースです。
施主が満足してくれるように、不満が出ないようにと努力しているのに、なぜか深刻な問題が起こってしまうことがあります。不満に対応し、その原因についてきちんと説明もしているのに、その不満がどんどん膨れ上がってしまうのです。

これは、少し難しい理由が関係しています。
施主の不満の原因がどこにあるか、それを特定することは確かに大事です。しかし、まず、その不満そのものをあなたがきちんと理解し、共感しているかどうかによって、自体が深刻化するかどうか、大きく道が分かれるのです。
同じような不満を持った背主が2人いるとします。
その不満に対して同じ対策を取ったのに、一方は施主が満足して無事に工事も終わり、もう一方は問題がひたすら深刻化していって解決できなくなってしまった、ということが起こりえるのです。
その理由は、施主から不満を伝えられた時に対応した人間の説明の仕方の違いにあります。

たとえば、その不満の原因が「非常に小さな床の傾斜」にあったとしましょう。
それに対して、「その原因はこういうことであり、どうしても起こってしまうことです。法的な基準では問題ないけれども、不満を持たれているのであれば対応します」という対応をするのと、「こういう理由があるのでどうしても起こる可能性があり、法的な基準で見れば問題でない程度の僅かな傾斜ではあるが、これは確かに気になるので、対応について検討します」という対応をするのでは、施主が受ける印象は大きく異なります。

仕事をこなしている側からすれば、それまでに何度も建ててきたもののひとつであっても、施主にとっては人生で1度きりの大きな買い物です。相手にとってそれが大切なものであることを忘れて対応してしまうと、最初は小さな不満だったとしても、最終的にはどうにもならないくらいの大きな不満になり、クレームとなってしまうのです。たとえそれが“正しい”対応であっても、伝え方や態度によって正反対の結果になってしまうことを肝に銘じなければなりません。

施主が不満を伝える時に感じていること

多くの人が不満を感じていても、それを口にしないものだということは上で述べました。
では、その不満を相手に伝える時、人はどんな気持ちになっているでしょうか。
多くの人にとって、不満を伝えること自体、相手を責めるような形になてしまうので、何か悪いことをしているような気持ちになり、不安や罪悪感を抱きます。
「自分はとても気になってしまうけれど、他の人は皆こんなことを気にしないのではないか」
「こんなことを言ったら現場監督や現場の人たちが気を悪くするのではないか」
「こんなことを言ったら迷惑ではないか」
「クレーマーだと思われたくない」
そんなことを考えてしまうのです。
人生で一度の買い物であるということは、これまでに経験のないことをしているということです。当然、知識もないのですから、たとえ気になることがあっても、それを気にするのが「普通のこと」なのかどうかも分からないのです。

プロである現場監督であれば、そういった不安、罪悪感を解消してあげなければなりません。施主の罪悪感を放置していれば、遅かれ早かれそれは疑いの気持ちに変わってしまい、最悪の形にこじれてしまう原因となりかねません。
では、どうすればその罪悪感を消せるのでしょう。
実は難しいことは何もないのです。

  1. 伝えられた不満の内容が当然だと共感してあげること
  2. 不満を伝えられても自分はそれを迷惑だなどとはまったく思っておらず、むしろ言ってくれたことを感謝していると伝えること

この2つをクリアしさえすれば、大丈夫です。
これだけで、施主の気持ちはとても軽くなるのです。
そしてまた、施主が感じている不満を知らないまま最後まで工事を続けるよりも、それを伝えてもらい、知って対応することの方がより良い家づくりのための勉強になる、ということが、あなたなら理解できるはずです。

大切なのは施主との信頼関係

黙って不満を抱える施主と、それに気づかない現場監督。そこからは、決して良い家づくりは実現しません。
施主の不満に気づいてあげること自体ももちろん大切ですが、施主が抱いた不満を伝えやすい環境をつくること、これを忘れないでください。
施主から伝えられた不満にどう対応したかということによって、その家づくりが良いものだったかどうかも大きく変わります。

現場監督は、施主からの不満に対応する機会の多い立場です。
施主が抱えた不満にうまく対応し、一見するとピンチにも思える状況を大きなチャンスに変えることができた現場監督は、非常に幸運だと言わなければなりません。
なぜなら、不満を伝えることで良い結果に出会えた施主は、そんな現場監督であるあなたに必ず感謝してくれるはずだからです。