うっかりミスはなぜ起こるか?現場監督として取り組みたいヒューマンエラー対策

うっかりミスはなぜ起こるか?現場監督として取り組みたいヒューマンエラー対策

住宅の建築業界にかぎらず、交通機関、金融機関、医療機関など、ちょっとしたミスが深刻な社会問題にまで発展してしまうことがあります。
システム障害、誤発注、医療過誤といった「事故」は、様々な要因が複雑に影響し合って発生していますが、その根底には、人間の誤認識や誤動作によって引き起こされる「ヒューマンエラー」があります。
これらの事故は、企業の信頼を失墜させてしまうばかりでなく、顧客の安全性を脅かし、多額の賠償責任を負うなど、取り返しのつかない大きな損害につながりかねません。
今、ビジネスの現場では、機械化・IT化が進んだことによって、一人の人間の作業が非常に広範囲にわたって影響するようにできています。このため、ヒューマンエラーによって引き起こされる事故の規模は大変大きなものになるのです。一見、些細と思われる失敗が大きな損失に結びつくリスクを回避するため、ヒューマンエラーの対策は必須のものになっています。
今回は、現場の事故に結びつくヒューマンエラーについて考えてみたいと思います。

ヒューマンエラーとは何か

ヒューマンエラーとは、文字通り、人間による失敗やミスが原因で起こるもので、さまざまな事故の原因になっています。
多くの場合、「行うべき作業を適切に行わないこと」が、ヒューマンエラーが発生する原因になっています。
どのような現場でも、ヒューマンエラーを起こさないように気をつけていると思います。
もちろん、「ヒューマンエラーを起こさない」という意識を持って防止対策を講じれば、ある程度それを防止することは可能です。
しかし、人間は必ず何らかのミスを犯します。ヒューマンエラーの発生を完全に防ぐことは不可能だと言ってもいいでしょう。
「どんなに気をつけていてもヒューマンエラーは必ず発生する」ということを常に念頭に置いていないと、ヒューマンエラーへの対応を検討することはできません。

  • ヒューマンエラーが発生してしまう「芽」をあらかじめ摘む
  • ヒューマンエラーの発生を迅速に検知する
  • ヒューマンエラーによる事故が発生したら、迅速に対応する

といった「ヒューマンエラーの発生を想定した対策」を講じることこそが重要です。

ヒューマンエラーはどのように発生するか?その防止法は?

ヒューマンエラーは、人間が情報を処理し、行動していくそれぞれのプロセスで発生します。実際は、異なるプロセスにまたがってエラーが発生することもあり、軽微なエラーが連鎖して大きな事故につながることもあります。

情報を取得する「入力プロセス」でのヒューマンエラー

「見落とし」「見間違い」「聞き間違い」などのことで、情報を正しく知覚・認知できないというヒューマンエラーです。
これは、その業務に関する知識や経験、理解などが不足していることが原因で発生します。
知識や経験が不足しているために誤って認識してしまったり、身につけた知識が誤っていたり、よく知らないために情報を知覚・認知できなかったり、マニュアルや手順書を正しく理解できていなかったりするわけです。

「見落とし」「見間違い」「聞き間違い」の例

  • 機器が警告を表示していたにもかかわらず、見落としたために事故が発生した
  • 図面の寸法を見間違えたため、欠陥住宅を作ってしまった
  • 顧客へのヒアリングで仕様を聞き間違えて、見当違いの仕様に基づいた見積書を提出した

このプロセスでのヒューマンエラーは、情報を正しく知覚、認知できないということが原因ですので、「情報が正しく入力されているかどうかを確認することが重要です。
具体的な対策としては、下記のものが考えられます。

  • 見落としを防ぐために指差し確認する
  • 見間違いを防ぐために複数の担当者で数字などは読み合わせをする
  • 聞き間違いを防ぐために口頭ではなく文書で伝達する(口頭の場合は復唱する)
  • 上記のルールをマニュアルに盛り込み、教育を徹底する

指差し・声出しの確認については、ガスや電気は消したか、鍵は持ったか、財布を忘れていないかなど、日常生活で行う人もいると思います。
目で確認するだけだと脳への刺激が足りないので、より多くの器官を活用することによって意識を覚醒し、集中力や注意力を向上させるわけでえう。

情報を判断する「媒介プロセス」でのヒューマンエラー

「知識が誤っていた」「経験に依存して判断を誤った」「思い込みにより判断を誤った」といったことが原因で、情報を正しく判断・決定できないというヒューマンエラーです。
これは、作業者の思い込みや先入観、知識不足などによって正しい判断を下せないような場合や、判断するためのプロセスが複雑すぎることが原因で発生します。
記憶や学習が中途半端であり、知識が乏しいために正しい判断ができないわけです。

「知識が誤っていた」「経験に依存して判断を誤った」「思い込みにより判断を誤った」の例

  • 誤った商品知識をもっていたため、顧客に見当違いの説明をしてしまった
  • ベテラン運転手が経験を過信して無理な運転をして事故を起こした
  • 顧客からのクレームを「急ぎのものではない」と放置し、大きなクレームにつながった

このプロセスでのヒューマンエラーは、情報が正しく判断されないことによって起こるので、「正しい判断を行うための正しい知識の教育」「判断基準の統一」といったことが重要となります。
具体的な対策としては、下記のものが考えられます。

  • 操作法や業務内容の正しい知識を教育する
  • マニュアルなどによって判断基準を明確化・統一する
  • 作業手順を簡略化し、エラーを起こしにくくする
  • 異なる人間による複数のチェックポイントを設定する

行動を決定・実行する「出力プロセス」でのヒューマンエラー

「やり忘れ」「やり間違い」「勘違い」などによって、判断に基づいた行動を正しく実行できないというヒューマンエラーです。
これは、作業が難しすぎたり複雑すぎるために正しく実行できない場合や、作業員の能力不足や疲労などによって実行できない場合、意図的に手抜きをすることが原因で発生します。
つまり、次の3種類に分けられることになります。

  • スリップ: 自分の意思とは違った行動をする
  • 故意: 意図的に誤った行動をとる
  • できない: 適切な行動をする能力がない

このうち、「故意」は、作業のルールに従わないことを選択しているので、「違反行為」「手抜き」に当てはまります。
作業をするときに楽な方法をとったり(近道行動)、全品検査しなくてはいけないのに、一部を抜き出して検査し、時間や手間を省略したり(省略行動)、といったものです。これは作業手順のルールに反しているわけですが、場合によっては、法律に違反する悪質なヒューマンエラーとも言えます。

「やり忘れ」「やり間違い」「勘違い」の例

  • 上司に指示された業務を忘れてやらなかった
  • ブレーキとアクセルを踏み間違えた
  • 中身を確認せずに別の書類を取引先に提出した

このプロセスでのヒューマンエラーは、行動が実行されない、もしくは行動が正しく実行されないことによって起こるので、「行動が正しく実行されているかどうかを確認する」ことが重要です。無意識の行動がもとになっているため、無意識に行動しないように一定の制約を加えたり、負担を軽減することも効果的です。
具体的な対策としては、下記のものが考えられます。

  • 作業手順を見直す
  • 複雑な作業を手助けするツールを導入する
  • ToDoリストを作成し、もれを防ぐ
  • 落ち着いて、一つずつ作業や操作を行う
  • 作業、操作に際しては、目視などによる確認を行う

複雑で困難な作業手順は、作業者にも多大なストレスをかけます。ヒューマンエラーが起こりやすい作業手順を改めることも防止策の1つです。ヒューマンエラーが起きやすい作業があれば、わかりやすく、やりやすい手順に改善していきましょう。効率もアップするはずです。
長時間作業をしていると、人間は集中力が途切れます。理想は「集中力が低下してもミスをしないようなシステム」になるように、手順を見直すことは大事な対策です。
そもそも、人間の記憶はとてもあいまいなものです。忘れないだろうと思うようなことに限って忘れることがあるのです。これを防ぐのがチェックシートです。作業前・作業後に目を通し、抜かりなく確認するようにしましょう。
また、わかりにくい文字(数字の1と英小文字のlなど)を使わないようにするというのもひとつの対策です。
意図的な手抜きについても、上記のような対策で改善できることもありますが、社内規則を整備したり、罰則規定を設けるといった対策も検討する必要もあります。

ヒューマンエラーが起こってしまったら

ヒューマンエラー防止対策を立てても、その発生を防ぐことができなかった場合を想定しなくてはなりません。
そのために、まずはヒューマンエラーが発生したら、すぐにそれを検知する仕組みを検討しましょう。
そのためには、作業結果を確認する機会をなるべく多く設けて、目標と行為のズレを少なくしましょう。チェックリストや、複数の担当者によりダブルチェックが有効です。

次に、ヒューマンエラーを防ぐことができず、検知することもできず、事故が発生してしまった場合を想定します。
事故による損害の拡大を防ぐことが最大のポイントです。
「高所作業からの転落」という事故が考えられるのであれば、転落しないようにする対策とは別に、それでも転落した場合の対策を立てるということです。たとえば「安全ネットなどを張る」ということですね。
同じように、「食中毒の発生」という事故が起こってしまったときの対策として、「迅速に被害者に対応するためのマニュアルを作成する」ということが考えられます。

ヒューマンエラーへの対策の立て方

上記で、プロセスごとに対策のポイントを紹介しましたが、ヒューマンエラーへの対応を組織的に検討するためには、情報を収集して分析する必要があります。

  1. 情報を収集する
    顧客や取引先、社内の他部署、アンケートなどによって、事故に結びついたかどうかにかかわらず、過去に発生したヒューマンエラーの事例を集めます。複数のヒューマンエラーが連携して新たなエラーになるケースもありますので、できるだけ多くの事例を集めましょう。
    建設の現場などでは、これをヒヤリ・ハットと呼んでいますね(医療業界などでも同じように呼ばれます)。これらはヒューマンエラーを「芽」の段階でつみとるための非常に重要な情報です。
  2. ヒューマンエラーを分析する
    そのヒューマンエラーの要素や要因を検証し、どのような事故につながる可能性があるか、実際につながるかということを検証します。「どの時点で」「どのような理由により」発生したエラーなのかを検証し、発生させた本質を突きとめましょう。
  3. ヒューマンエラーへの対策を決める
    分析に基づいて、防止対策を決定し、ガイドラインやチェックリスト、マニュアルなどを作成します。

対策を立てても守らなければ意味がない

ヒューマンエラーの多くは、「決められた手順通りの対策を実行しなかった」ことが原因になっています。
例えば、「指差し確認などの確認を省略した」「警告を無視して作業を続けた」「自分では念入りに確認をしたつもりだった」といった「主観的な判断」。
このような「主観的な判断」を防ぐために、様々なプロセスに「客観的なチェックポイント」を設置しているわけですが、「主観的な判断」でそのチェックポイントを無視してしまうと、防止対策になりません。
また、ルールを決めてから時間が経過してしますことによって、防止対策が形骸化してしまうことがあります。たとえば、「指差し確認は一応しているが、なんとなく無意識に指を差しているだけで、実際には確認していない」というようなことがあります。
つまり、対策を効果的なものにするためには、いかなる場合でも定められた原則とルールを遵守することが必要なのです。
こういったことを防ぐために、次のような方法があります。

  • ヒヤリ・ハット勉強会: 現場のコミュニケーションも大切な防止策です。チームワークを築き、積極的にコミュニケーションがとれれば、わからないことを気軽に聞き合えるグループになります。
    現場で発生したヒヤリ・ハットの事例を検証し、決められた対策を実行しないことによって、どのようなヒューマンエラーが起きる可能性があるか、それによってどのような事故につながる可能性があるかといったことを啓蒙し、防止対策の重要性を認識してもらう勉強会はその役に立つはずです。
  • ヒューマンエラー防止対策委員会: 対策の実施を定期的にチェックする機関を設置します。

前半でも述べたように、どんなに対策をしても、ヒューマンエラーが発生する可能性を0にすることはできません。「ヒューマンエラーにともなうリスクをいかに少なくするか」という発想で対策を立てましょう。

ヒューマンエラーが起こる業務は廃止する

ヒューマンエラーが起こる可能性があり、そして起こってしまったら大きな事故に結びつくことが懸念されているのであれば、その業務を「やめる」というのが最大の対策になります。
極論のようですが、こうした考え方を「機会最小」といいます。
文字どおり、エラーにつながる機会を最小化するわけです。
ヒューマンエラーの対策を立てるときは、基本的にこの「機会最小」を必ず検討しましょう。
もちろん、必要があって行っている業務をやめることは容易ではありませんが、「工程をなるべく少なくする」「転記などをやめる」などといった手順変更によって、ムダをなくしたり、無理のある状況を改善することにはつながるはずです。

ヒューマンエラーをできなくする

業務そのものをなくすのではなく、エラーを起こすことができないようにするのも、有効な対策です。
これは「フールプルーフ」と呼ばれるもので、「期待されない行動を阻止するために物理的な制約を与える」ことです。
例えばオートマチック制御の自動車では、ブレーキを踏んでいなければエンジンを始動することができないように設計されています。このように、設計や計画を立てる段階で、ヒューマンエラーを阻止する仕組みにすれば、ヒューマンエラーは起こりません。

業務をわかりやすく、やりやすくする

ヒューマンエラーは、複雑な作業手順や、作業する人の能力を超える場面で起こります。わかりにくい状況、やりにくい状況は認識や判断を誤らせるからです。
業務はわかりやすく、やりやすいようにしましょう。たとえば5S活動などなどによって整理整頓されていたり、道具などが使いやすいように整備されている業務環境では、ミスは起こりにくくなります。
をしましょう。

うっかりミスはなぜ起こるか?現場監督として取り組みたいヒューマンエラー対策 まとめ

「なぜ、そんなことをしたのか?」
「そんなことでミスするなんて……」
ミスが発生したとき、周囲はきっとミスを犯した当事者を責めるでしょう。
しかし、ヒューマンエラーの対策に取り組むなら、当事者を責めるべきではありません。ミスをした原因を究明し、そのプロセスを改善して対策を立てることこそが大切なのです。
いつ誰がやってもミスをしないプロセスを完成させれば、確実にヒューマンエラーを減らせる対策になるはずです。
また、人間というものは、初めてその作業を行うときには緊張して真面目に取り組みますが、慣れてしまうと、自然と気がゆるみ、油断して、勝手に手順を簡略化したりしてしまうものです。
「これくらいならOK」「ちょっと無視しても問題ない」と自分の基準で判断してしまうのは、自動車の運転を思い出すと、納得できるかもしれません。「慣れたときこそ危ない」のです。
ヒューマンエラーの対策は、事故が起こってしまってからではできません。現実的な対策をつねに検討し、早い段階でヒューマンエラーを防止したいものです。