一般人には一生に一度の「地鎮祭」について、お施主様にきちんと説明できますか?

一般人には一生に一度の「地鎮祭」について、お施主様にきちんと説明できますか?

日本では、家づくりの期間中に二度、神様へのご挨拶をする伝統があります。それが「地鎮祭」と「上棟式」です。
最近では、地鎮祭をしないお施主様もいらっしゃいますが、基本的には、家を建てる前には地鎮祭を行うのが一般的です。
「地鎮祭ってよく聞くけど、実際やるのは初めて」
「一体何のためにやるの?」
お施主様のほとんどは、家を建てるのが初めてですから、地鎮祭についての知識はなく、疑問がいっぱいになることと思います。
こういったときに、きちんとお施主様に説明し、滞りなく準備ができるように、地鎮祭についての知識をもっておきましょう。

地鎮祭って何のためにするの?

地鎮祭(鎮地祭、土祭り、地祭り、地祝いなどと呼ばれる地域もあります)とは、読んで字のごとく「地を鎮める祭り」です。
近頃では省略されることもありますが、建築の現場では昔ながらの信仰を大切にする傾向がありますので、ほとんどの新築時に行われています。
起工式と同時に行われることもあります。

地鎮祭には、二つの意味合いがあります。
一つ目は、お施主様の家を建てることになった土地に住んでいる神様を祝い鎮め、土地を利用させてもらう許可を得ること。
そして二つ目は、これからの工事の安全と家の繁栄を祈願することです。
二つ目の目的を考えれば、現場監督にとっても地鎮祭が大事なイベントであることがわかりますね。
地鎮祭には、「安全祈願祭」という別名もあるのです。

地鎮祭は、日本最古の歴史書『日本書紀』にも記録されています。
持統天皇5(691)年10月27日に、「使者をつかわして新益京に、地鎮の祭をさせられた」と記録されており、新益京とは藤原京のこと(現在の奈良県橿原市)。持統天皇にとって、藤原京は自分が造営する初めての都となる重要な土地だったと言えます。
神式と仏式があり、奉献酒や玉串料は施主を含めた関係者が負担しますが、費用は施工業者が負担します。

土地の神様は本番の際の祝詞に登場するのですが、こんな神様がいます。

  • 氏神(うじがみ)、大地主大神(おおとこぬしのおおかみ): その一族の守り神、守護神のことです。
  • 産土神(うぶすながみ): 生まれた土地を守る神様で、その土地で生まれた人の一生を見守ってくださる存在です。七五三やお宮参りなどのときにお参りする神様でもあります。うぶすな、うぶがみ、またはうぶすなのかみなどとも呼ばれます。
  • 鎮守神(ちんじゅがみ): その地域一帯や建物を守護するために祀られた神様です。

近年では氏神や大地主大神、産土神、鎮守の神は同一視されるようになっており、最も近い場所にある神社に依頼することが多いようです。

無事故・無災害を神頼みするのは不謹慎なようですが、事故は人災だけでなく天災もありますので、現場監督としてはしっかりお祈りするべきでしょう。

神社と打ち合わせて決めること

地鎮祭は地域や人、場合によって様々に異なります。
以下、一般的な地鎮祭の進め方について紹介しますが、その土地の氏神様をお守りしている神社に問い合わせてみるのがいいでしょう。

地鎮祭は神主が執り行うものですから、あらかじめ神社と打ち合わせておくことが必要です。
式の1ヶ月前には、建てる家の近くの神社を探しておき、1週間前までには、お施主様と相談して、次の事項を決めるようにしてください。

  • 日時と場所
  • 施主の氏名、施工会社、設計者名
  • 参加者の人数(玉串をお供えする人数)
  • 神餞品(お供え)をどちらで用意するか
  • 神主の送迎はどうするのか
  • 神主への謝礼の金額

日取りは、慣例的には大安、先勝(または友引)吉日を選んで行なわれます。時間は午前中です。
神社への予約、飾り付けなどの手配や準備は、工務店側の仕事になります。
出席者はお施主様、工務店、工事関係者、神職です。

地鎮祭の準備

基本的に、必要なものは神主さんが用意してくれます。
ただし、神餞(米・塩・山の幸3種、海の幸3種、畑の物3種、お神酒)は、神主さんの指示で、お施主様や施工者が用意することがありますので、確認を忘れないようにしましょう。

お施主様に用意していただくもの

  • 米(一合、皿山盛り)
  • 神酒(一升)
  • 塩・水(一合)
  • 海の幸3種(鯛または鰹節・するめ・昆布、ワカメなど)
  • 野菜3種(大根・ニンジン・レンコン・キャベツなど菜物・ナス・キュウリ)
  • 果物3種(リンゴ、ミカンなど季節のもの)
  • 神酒の盃(茶碗等、人数分)
  • 神主さんに払う初穂料

お供え物などはどれもスーパーで手に入るものです。
また、神職へのお礼にあたる初穂料はお施主様に用意していただきます。
式の後に直会(なおらい)を行う場合は、飲み物やおつまみなども用意していただきます。

工務店が用意しなければならないもの

  • 笹竹(4本)
  • 注連縄
  • 砂(バケツ3杯程度)
  • スコップ (または鎌・鍬・鋤)
  • テント・イス

敷地内を整地し、準備するのは工務店側の仕事になります。

地鎮祭の服装は?

土地の神様に挨拶をする儀式なので、かしこまらなければいけないと思うかもしれませんが、お施主様も含め、服装は特別なものではなく普段着でも大丈夫です。わざわざスーツを新調したりする必要はありません。
Tシャツよりは襟のついたシャツの方がいいでしょう。履き物もサンダルなどは避けたほうがいいです。

お施主様が負担する地鎮祭の費用は?

お施主様には、初穂料(玉串料)を負担していただくことになります。また、それとは別に御車代を神主さんに渡します。
地鎮祭のお礼として奉納する初穂料はのし袋に包み、表書きは「初穂料」もしくは「玉串料」「御礼」「奉納」「奉献」などとするのが一般的です。
初穂料の金額の「相場」は、地域によっても異なり、神社側で最低金額を規定している例もありますが、個人住宅の場合、一般的には1万円~5万円程度です。なるべく新札で用意し、お札の向きも揃えてのし袋に入れていただきましょう。
また、式の後に直会(なおらい)の飲み物やおつまみに2~3万円、出席者へのご祝儀として、一人あたり5000~1万円ほどが、かかる費用です。
ご祝儀などは出さない地域もありますので、神社と事前に相談しておくのがいいでしょう。
工務店では謝礼を受け取らないことが一般的です。

地鎮祭の式次第

地鎮祭そのものにかかる時間は30分から1時間ほどでしょう。
地鎮祭は、家を建てる土地で行います。
テントの中に神様が降りるための祭壇を組み、お供え物を並べて、神主様が来てお祓いをします。方向は南または東とされています。

まず、手水(てみず)といって、神事の式場に入る前に、手水桶から掬った水で両手を洗い、心身を清めます。

神座の四隅に斎竹(いみだけ)を立て、しめ縄をめぐらし、紙垂を下げて結界をつくります。
祭壇には神饌(シンセン) 米、塩、山の幸・海の幸・畑の幸とお神酒を飾り、榊の木を立てます。これは神の依り代で、神が降臨する目印ですから、たいへん大切です。

  1. 手水(てみず、ちょうず)

    神事の会場に入る前に手水桶から掬った水で両手を洗い、心身を浄めます。
    この後、神主によって地鎮祭が開会が宣言されます。

  2. 修祓(しゅばつ)

    祭典の本儀に先立ち、参列者・お供え物を祓い清める儀式です。
    神主が大麻(おおぬさ)を左右に振って地鎮祭の参加者やお供えもののお祓いをします。

  3. 降神(こうしん)

    祭壇に立てた神籬に、その土地の氏神様を迎える儀式です。
    神主が「オオ~」と警蹕(けいひつ)の声を発して、降臨を告げます。これは「神様が降臨されるので、失礼のないように」という合図だそうです。

  4. 献饌(けんせん)

    神様に祭壇のお供え物を食していただく儀式です。酒と水の蓋を取り、お供えします。

  5. 祝詞奏上(のりとそうじょう)

    その土地に建物を建てることを神様に告げ、以後の工事の安全を祈る旨の祝詞を奏上します。
    神主が、お施主様と関係者の名前を含んだ祝詞を読み上げていきます。

  6. 四方祓(しほうはらい)・清祓い(きよはらい)

    土地の四隅をお祓いをし、神酒、米、塩、白紙敷地の中央と四隅にまいて清める儀式です。切麻(きりぬさ)・散米(さんまい)とも言います。

  7. 地鎮(じちん)

    盛砂に、斎鎌(いみかま)、斎鍬(いみくわ)、斎鋤(いみすき)を入れます。
    刈初(かりぞめ)の儀: 設計者が斎鎌を入れます。「エイ、エイ、エイ」と声を出しながら、三回鎌で盛砂の草をつかんで刈る動作をし、草を抜いて下におきます。
    穿初(うがちぞめ)の儀: お施主様が斎鍬を入れます。「エイ、エイ、エイ」と声を出しながら、盛砂に三回鍬を入れ、盛砂を崩していきます。
    穿初(うがちぞめ)の儀: 施工者が斎鋤を入れます。「エイ、エイ、エイ」と声を出しながら、盛砂に三回鋤を入れ、盛砂を均らしていきます。

  8. 玉串拝礼(たまぐしはいれい)・玉串奉奠(たまぐしほうてん)

    神前に玉串(榊等に紙垂を付けたもの)を奉り拝礼し、祈願します。

  9. 撤饌(てっせん)

    酒と水の蓋を閉じ、お供え物を下げます。

  10. 昇神(しょうしん)

    神籬に降りていた神をもとの御座所に送る儀式です。ここでも警蹕の声があげられます。

  11. 閉式の辞(へいしきのじ)

    神主が終了を告げて、地鎮祭は終了となります。

  12. お施主様の挨拶

    式が無事に終わると、お施主様にご挨拶していただきます。あらかじめご挨拶をお願いすることをお伝えしておくのを忘れないようにしてください。

  13. 直会(なおらい)

    共飲共食儀礼ともいい、参加者が神様に供えた神酒や神饌を食することです。
    最近では、お店を借りて宴会にされる場合もありますし、参加者に配布して持ち帰ってもらうこともあります。
    神酒拝戴(おみきはいたい): 土器(かわらけ)の杯にお神酒を注ぎ、神職の合図で乾杯します。
    神酒拝戴(しんしゅはいたい): 神様にお供えしたお供え物を食べます。

地鎮祭後の、ご近所への挨拶

地鎮祭が終わると、いよいよ基礎工事が始まります。
騒音や埃などが立ちますし、工事車両が道路に駐車したり、ご近所には、何かとご迷惑をかけてしまうことがありますので、ご挨拶に回ります。
地鎮祭は午前中に終わりますので、午後からの時間をご近所のご挨拶回りに使うことになります。
現場監督として覚えておきたい、近隣とのトラブル回避のコツ」でも書いたように、工事前の近隣挨拶は、現場監督にとって、大変重要な仕事です。
ご挨拶状と粗品(タオル・菓子箱・洗剤など)を携え、「工事中ご迷惑おかけします、もし何かありましたら私に連絡ください」とご挨拶します。
費用の予算は500円~2000円程度が常識的な範囲でしょうか。
ご挨拶の仕方で第一印象は変わってしまいますので、注意しましょう。
大切なことは「気持ち」です。こちらも心配なように、相手の方も「どんな人が引っ越してくるんだろう」と不安と心配で気になっているのです。
こ挨拶ひとつで、これからの工事はもちろん、お施主様の後々のご近所付き合いが左右されることもあります。
このご挨拶まわりにお施主様に同行していただくかどうかは、ケースバイケースです。地域によっては、お施主様が単独でご挨拶されることもあります。

一般人には一生に一度の「地鎮祭」について、お施主様にきちんと説明できますか? まとめ

現場監督のように家づくりに関わる者にとっては、地鎮祭は日常的なものですが、最初に書いたように、お施主様のほとんどにとっては、人生にきっと一度しか経験することがないであろうイベントが、地鎮祭です。
地鎮祭を行わなければ神様に祟られて事故が発生するのか、というと、もちろんそんなことはありませんが、地鎮祭は、棟梁、鳶、設計者、施工者など家作りに携わる人間が、お施主様と顔を合わせる機会でもあり、きちんと挨拶ができる場でもあります。
職人さんたちも、どんな人が住むのか知らない家を作るよりも、お施主様の顔を思い浮かべながら作業するのとでは、良い家を建てるための思い入れに違いが出てきます。
地鎮祭の後、感きわまって涙ぐんでしまうお施主様もいます。
ご家族の思い出にもなりますので、家族の絆を深め、大切な家に対する思いの原点になる、意義のある儀式として、とどこおりなく進めましょう。