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家づくりの工事は、そのほとんどが手作業で、人間が行うものです。
職人の技術がいくらすばらしくても、現場監督の経験がいくら豊かでも、人間のやることですから、時には見落としやミスも起こります。予想もしていなかったトラブルが起きてしまうこともあるでしょう。
そういった不測の事態を未然に防ぎ、もし発生しても被害を最小限に食い止めるには、徹底した管理が必要です。
つまり、工事というものは、その会社がその工事の「管理業務」にどれだけウエイトを置いているか、ということがを評価の指標になるのです。
今回は、その管理業務の中でも最も重要とも言える、現場監督の「安全管理」の仕事について考えてみたいと思います。
現場監督が行う施工管理の業務は、大きく4つに分けられます。
この4つの管理方法が、その工務店の社内で確立されており、現場監督をはじめ、作業スタッフ全員に周知徹底されていて、それぞれの管理状況をちゃんとお施主様に明示できるようにしているかどうかが、管理業務のクオリティということになります。
順番に見ていくと、「品質管理」は建物の品質、建物の構造部分(基礎や柱や梁、その建物の骨組みとなる部分)から、内装の仕上げまで、設計図通りの強度の構造、漏水のない防水、見栄えの良い内装、こういった品質を管理します。
「原価管理」は予算管理のことです。良い建物ができても予算を超えると赤字になってしまいます。
「工程管理」は工期を守るため作業日程を調整することです。様々な工事や数多くの職人の作業を効率よく進めていくために、日々打ち合わせをして段取りを決めていきます。
そして「安全管理」とは、文字通り、安全を管理することです。
現場には様々な危険な場所や、溶接など間違えれば火事につながる作業もあります。
最悪の場合、死亡災害ということもあります。
そういった災害を未然に防ぐため、危険な場所には手すりを付ける、消火設備を整える、
など現場を安全に進めるため管理します。
「安全管理」が現場監督の管理業務の中でも最重要と言われるのはなぜでしょうか。
一般の人にとっては、工事現場はシートや鉄製の壁などで被われていて、どのような作業をしているか知ることができませんが、工事現場には様々な危険が存在します。
現場では全員がヘルメットを着用していて視野が狭く、様々な機材道具を抱えて移動しています。ただ通行するのですら、安全とは言えません。
具体的には、
などなど、数え上げるとキリがないほどの危険があるのです。建設業では、毎日どこかの現場で1件以上の死亡事故が起こっています。どれも、現場で実際に起こりうることなのです。
そんな状態で不安全を察知するには、知識と経験が必要です。
安全管理は、朝来た作業員が夕方作業を終えて帰る時に、「お疲れ様」と笑顔で家に帰すためのものでもあります。
万が一、事故が発生したら、絶対に笑顔では帰れないのですから。
ケガをした作業員が乗った救急車を見送りながら、「こうしておけば良かった」「あの時なぜ注意しておかなかったのか」と後悔で頭がいっぱいになるような経験をしないためのものが「安全管理」なのです。
建設業界には、次のような安全管理のルールがあります。
作業員たちは、作業に夢中になると、ついルールを飛ばしてしまうことがあります。現場監督は重要な現場には立ち会い、ルール通りに作業が行われているかを繰り返し確認するという業務を継続しなければなりません。
建設現場の安全対策が難しいのは、「様々な業者や作業員が一度きりの現場で様々な作業をする」という特徴から来ています。
このため、
といった特徴があるのです。
裏返せば、建設現場での安全対策には、状況に応じた安全対策を仕組み化することが必要なのです。
参考サイト:「ヒューマンエラーを防ぐには?」((財)中小建設業特別教育協会)
多くの問題は、「当たり前」を当たり前にこなしていないことに起因しています。
「当たり前」をどう徹底化・標準化し、浸透させていくか。
現場監督は、そのことを口酸っぱく声を出していくことが腕の見せどころになるのです。
まずは、設備などの環境が不安全な状態に対して「かもしれない」という意識をもちましょう。
台風や気温の変化などの自然現象、現場の地理的要件によっても危険度は変わります。
「かもしれない」という観点から、その時、その場所における危険を察知し、安全を確認することが重要です。
たとえば、真夏には作業員が熱中症になるかもしれないから、まめに水分補給をさせたり、強風の日には資材や建材などの飛散対策をしたり、豪雨などの際には工事を中止するなど、起こりうる事故を想定することから安全管理は始まります。
危険個所を目立たせるように安全看板を設置したり、墜落の危険がある開口部や端部には蓋や手すりを設けたり、重機の旋回半径に三角コーンとコーンバーで囲いを設けたりと、小さな危険を大きく目立たせることもひとつの方法です。
現場の危険に敏感になること。
そして、安全に作業ができる環境整備と段取りを行いましょう。
「安全管理」という仕事を、なにか安全活動を運営管理することというような曖昧なものと思い込んでいませんか。
わざと事故を起こす人はいません。ほとんどの人が「事故になるとは思っていなかった」と思うときに、事故が起こります。
大丈夫だろう、安全だろう。そんなちょっとした不注意やうっかり、判断ミスが大事故を起こす原因となるわけです。
事故の直接的な原因が自然現象や機械などによるものであったとしても、それを引き起こしているのは、根本的には、人の「判断と行動」であり、人の「行動」にあります。
こういったことをつきつめていくと、多くの場合、「人の管理」の重要性に行き着きます。つまり、安全管理の基本は、いかに人の行動を管理するかということなのです。そのために、安全を管理する現場監督の役目と、それを育成することがとても重要です。
現場監督として、現場に携わる一人ひとりに安全に対する意識を定着させるための仕組みには、次のようなものがあります。
毎朝の朝礼で「KY活動」を行うのも現場監督の仕事です。
KYというのは「危険予知活動」(KYKやTBM=ツールボックスミーティングなどと呼ばれることもあります)のことです。
KY活動というのは、朝礼の後に各作業の班ごとで集まり、その日1日作、安全に作業できるように、作業内容・作業員の配置・危険なポイント・危険への対策をきちんと確認することです。
「どのような危険が潜んでいるのか」「どのような事故が起こりうるのか」「事故を起こさないためにはどうするべきなのか」ということを考えてもらい、KY活動表に記入してもらいます。
重要な作業には、朝礼で指示をするだけでなく、現場監督として立ち会い、気をつけてほしいポイントを説明すると何倍も効果的です。
ひどい現場監督の現場になると、帰り際の作業員にKY活動の用紙へのサインだけしてもらうようなところもあるようです。これではまったく意味がありません。
現場監督がちゃんとしていても、徹底することは容易ではありません。KYが不徹底な業者さんもいます。時間をかけてちゃんとKY活動をしている業者さんと、適当に済ましている業者さんとでは、安全面にとどまらず、品質面でも差がつくものです。
サボっている人がいると全体の士気が下がってしまいかねません。そんな現場では、全体の底上げが必要不可欠です。一人一人安全意識の向上を図り、安全な作業環境を確保するのが、現場監督の重要な仕事なのです。
その施工現場に初めて作業に入る作業員さん全員に実施する教育です。
現場における各施設設備の位置や、禁止事項等を理解してもらいます。
各施工業者のリーダーである職長が集まり、毎日行う打合せです。
各作業の進捗を確認し、次の作業に移るための障害について全員で理解した上で、実際の作業をする立場から意見を出してもらい、それを共有することで、現場の安全を確保します。
人間は機械ではありませんので、しょせん不完全なものです。どんなに注意深い人であっても、何万回に1回は、危険な行動や判断ミス、指示ミスを起こすことがあります。人によっては、それが千回に1回だったり100回に1回なのかもしれません。
きちんとしていると信頼していた人が間違った判断をする、ということは、最も恐れるべきリスクです。
安全管理は、日々の業務の忙しさに紛れてしまいがちですが、どれも毎日の業務改善につながるものです。ぜひ現場監督として最重要のものとして取り組んでください。